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(4)てんかんの社会的側面 岡山大学病院小児神経科前教授 大塚 頌子

 おおつか・ようこ 福山誠之館高、岡山大医学部卒。モントリオール神経研究所留学。2004年から岡山大大学院医歯学総合研究科教授、05年から同大学院医歯薬学総合研究科教授。12年3月末で定年退職。日本小児神経学会理事、日本てんかん学会理事、日本小児科学会代議員。

てんかんに対してどのようなイメージを持っていますか?

 昨年はてんかんの人が関係した悲惨な自動車事故があちこちで起こりました。発作が治まっていないのに免許を取り、事故を起こした人に弁解の余地はありませんが、真剣に治療に取り組んでいる多くの患者さんが肩身の狭い思いをすることも不当なことです。この機会に皆さんにてんかんに対する正しい知識を持っていただきたいと思います。

てんかんは誰でもいつでもかかる可能性がある病気です   

 先日NHKの「ためしてガッテン」にてんかんが取り上げられましたが、成人では脳卒中やアルツハイマー病などの脳の病気でてんかんが起こることがあります。

 子どもでは新生児から思春期までどの年齢でも発病します。岡山県の子どものてんかんについて疫学調査したところ、千人に8・8人の割合でした。これを全人口に当てはめると、日本には約100万人の患者さんがいることになります。全ての年齢の人を対象にした欧米の調査ではグラフのように、子どもと高齢者で発病が多いことがわかっています。

てんかんはてんかん発作を繰り返す脳の病気です      

 体を動かしたり、感じたりするのは、脳の神経細胞の活動の結果ですが、てんかんでは神経細胞が過剰興奮するため、一時的に発作という現象が起こります=図参照。脳のどの部位の神経細胞が興奮するかにより発作の様子は異なり、けいれんや異常感覚が起きたり、意識が低下したりします。数秒間動作を止め呼びかけに反応しない場合や、数分間手足をもぞもぞさせながら反応が低下する場合など、同じようなことを繰り返すときにはてんかん発作かもわかりません。診断には神経細胞の異常興奮を示す棘波(きょくは)を検出する脳波検査が重要です。他の慢性疾患と同じく、てんかんは脳損傷などの外的要因と素質が複雑に関係して発病し、必ず遺伝するという病気ではありません。

てんかんの治療   

 抗てんかん薬による治療が一般的で、最近では新薬が次々発売されています。外科手術が奏効することもあります。子どもの時に発病したてんかんは、成人までに約8割の人では発作は治まります。発作が止まりにくい患者さんは2、3割と言われていますが、対応が不十分な場合は治るはずのてんかんがこじれてしまうこともあります。岡山大学病院小児神経科ではてんかんを専門的に診療しています。

てんかんと社会生活・学校生活   

 以前はてんかんであればどのような状態でも運転免許は取得できませんでした。それでは病気を申告せずに免許を取る人も出てきますし、もともと治療により発作が止まれば運転に支障はないため、2002年に法律が変わり、基本的には薬を飲んでいても2年間発作がなければ免許が取れるようになりました。患者さんは規則をきちんと守ること、医師も患者さんを十分指導することが求められます。

 子どもではてんかんにより学校生活に制限を受けることがあります。その子の状態によりますが、危険だから参加させないのではなく、どう取り組めば一緒に活動できるか、本人・家族・学校関係者が相談し、主治医の意見を聞いて工夫するのがよいでしょう。

 岡山県にも水泳の授業の制限が厳しい地域がありました。発作が止まっていても、薬を飲んでいると家族の付き添いを求められる、その子だけ別の色の帽子を着用させられるなどの事例もありましたが、最近では主治医の意見を聞いて、その子や家族の負担が少ない形で参加できるように改善されたことはうれしいことです。

 誰でもいつ病気になるかわかりません。病気や障害を持つ人を排除せず、どうすればうまく共生できるか考えることが大切だと思います。そういう社会が誰にとっても生きやすい社会ではないでしょうか。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年04月02日 更新)

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