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災害対策に追われる病院 岡山県内 耐震化未着手施設も

岡山赤十字病院の備蓄倉庫に並ぶ非常食。「1食目」「2食目」と食べる順番や量を示す記載がある

港の一角にある備前市立日生病院。耐震構造だが、津波襲来や地盤液状化の恐れがある

 巨大地震などの際、地域医療の要となる病院。3月末に示された政府有識者会議の推計では、南海トラフを震源とする地震で岡山県は最大震度6強、3・7メートルの津波に襲われる懸念がある。国の調査(2009年)による県内病院の耐震化率が全国最低水準となる中、県南部での備えを探った。

 魚肉やパンの缶詰、野菜ジュース…。「1食目」と記された棚に非常食の段ボールが並ぶ。岡山赤十字病院(岡山市)の備蓄倉庫。全入院患者の3日分に当たる4500食は献立が事前に決められ、患者の病状に合わせた特別な食べ物もある。

 災害時に24時間体制で傷病者を受け入れる「災害拠点病院」。厚生労働省の通知に基づき、3日分程度の自家発電用燃料や食料、飲料水、医薬品を備蓄。災害対策マニュアル作りや県内9つの災害拠点病院での合同訓練なども行い、臨戦態勢を整える。

 建て替えを経て1月に診療を始めた備前市立備前病院は備蓄に加え、地下にトイレ用の汚水タンクを設置。下水道が壊れても7日間はしのげる措置を取った。

 ■多額の負担

 約170の病院(病床20以上)がある岡山県。2009年の厚労省調査で県内病院の耐震化率は全国平均を19・3ポイント下回り、ワーストの36・9%。耐震診断も17・8%が未実施だった。

 特に大半を占める中小病院に関しては、災害拠点病院のような細かい対策規定が無く、自主的取り組みに委ねられている。県医療推進課は「まず耐震診断の実施をお願いしたい。患者は災害弱者。簡単に避難できず、継続治療が必要な人も多い。揺れに耐え、医療活動が継続できる態勢づくりを」と訴える。

 しかし、公営、民営を問わず赤字経営の病院も珍しくなく、「多額の負担が生じる耐震工事は容易でない」(民間病院長)との声が上がる。

 玉野市民病院は築約40年と老朽化が進むものの、耐震診断を受けていない。「耐震化の必要性は分かっているが、赤字施設だけに建て替えか耐震工事かを選ぶ検討が必要」と説明する。笠岡市民病院や岡山労災病院(岡山市)などでも診断を終えたが、耐震化に未着手の建物が残る。

 ■必要な行政指導 

 岡山県南部では地理的条件や用地の価格面から、地盤の緩い沿岸部に建つ病院が相当数ある。津波被害の恐れがある1階や、地下に自家発電設備を置く例も珍しくない。

 港の埋め立て地に位置する備前市立日生病院は耐震構造化され、自家発電設備も屋上に備える。だが、最大級の津波が襲えば数十センチの浸水が予想される。

 「建物の開口部をふさぐ防潮板設置を検討したが、流されてくる船や車は防げない。液状化対策も手の打ちようがない」と同病院。対策マニュアルを作成中だが、「どんな被害を想定し、対策を取ればよいのか。国や県の助言が欲しい」とする。

 東日本大震災では、周辺の被害が甚大で、患者や職員が何日も孤立した病院が出た。建物の被害は軽くても、負傷者が次々と搬送され、薬や発電燃料の不足が深刻となるケースもあった。

 岡山大大学院自然科学研究科の鈴木和彦教授(安全工学)は「被災地の悲劇は決して人ごとではない。巨大地震を前提に、病院は危機意識を持って対策を講じるべき」と指摘。「人の命を預かる施設だけに、一定の行政指導が必要では」としている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年04月22日 更新)

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