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瀬戸内海診療船「済生丸」 岡山済生会総合病院名誉院長 糸島達也

 済生会は1911年、明治天皇の御下賜金を基に貧しい人の救済と医療のために恩賜財団として発足しました。現在は全国に80病院、370施設で、4万7千人の職員からなる日本最大の社会福祉法人です。その創立50周年を記念して62年、岡山済生会総合病院の大和人士院長(当時)を中心に導入したのが瀬戸内海診療船「済生丸」です。

 私は東京オリンピック開催の64年、同病院でインターンをし、夏休みに済生丸の離島診療に参加しました。ある半島の道路がなく隔離された海辺の崖下集落の検診で、近親結婚の欠点を実感したのを思い出します。その後約50年間、済生丸は岡山、広島、香川、愛媛の4県を巡回し、66島、95寄港地、年間1万1千人余を検診しています。

 2年前、日生諸島の頭島(備前市)で検診前夜に健康教室を開き、島民と話し合った時のことです。出席者35人の4割近い人から、検診でがんを見つけてもらったおかげで手術ができ、元気でいるとお礼を言われ、驚きました。毎回の検診でがんを発見することは実感として非常に少なかったためで、この差は何だろうと疑問を持ちました。

 統計を見ると、日本の死亡者114万人の34万人、30%はがんで、5割の人ががんに 罹患 ( りかん ) しています。胃がんの場合では、5年生存率は検診で見つかると93%なのに、検診以外だと60%に下がります。これらから、検診を数十年続けた結果、がん体験者が5割に近づき、約4割の人がお礼を言われたのが理解できました。毎年検診を受けることは、非常に大切です。

 瀬戸大橋、しまなみ海道ができた今でも、収入の少ない離島の高齢者は済生丸の訪問を待っています。瀬戸内4県の済生会の協力で今後も検診を主体とした診療と健康教室は続けますが、済生丸3世号も20年余たち老朽化しており、皆さまのご支援を期待しています。

(2011年4月28日付山陽新聞夕刊「一日一題」)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年04月28日 更新)

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