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乳がん患者の悩みケア 岡山大病院 下着メーカー女性社員常駐

カウンセリングルームで、乳がん患者の下着について医師と意見を交わす岡さん(左)=岡山大病院

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町)の乳がん治療・再建センターに下着メーカーの女性が常駐し、乳房を再建した患者の下着に関する悩みに寄り添っている。情報不足から適切なブラジャー選びを諦める患者も多い中、女性としての誇りや自信を取り戻し、社会復帰を後押しする取り組みとして注目されている。

 「病気になってどんな下着を着ければいいか分からなくて…」「左右で胸の形が違うから市販品では痛いんです」。カラフルな製品が並ぶ明るい雰囲気の室内。“下着カウンセラー”の岡いずみさん(51)の元には、さまざまな悩みを抱えた患者が訪れる。

 岡さんは下着メーカー・ワコールの人間科学研究所(京都市)の社員だ。2010年に始まった乳がん患者のQOL(生活の質)向上に関する同病院と同社の共同研究の一環で、全国で初めて開設された「院内カウンセリングルーム」に常駐。これまでに向き合った患者は100人を超えた。

 専用の器具で患者の胸を採寸し、左右それぞれに合うパッドや肩ひもの長さを調整。約3千種類の中から最も体に合ったセミオーダーの品を提案する。暗い表情だった患者が華やかな下着を手にし、笑顔を取り戻す瞬間が一番やりがいを感じるという。

4割は乳房切除 

 年間約5万人が罹患(りかん)するとされる乳がん。早期発見で乳房を温存できるケースが増えるが、約4割は乳房切除の手術を受ける。乳房を再建した場合、形が安定するまでおよそ1年かかり、その間は下着による補正が欠かせない。しかし、術後の下着のケアまでは行き届いていないのが実情だ。

 「男性の医師や下着売り場の店員に相談するのは気が重く、体に合わなくても我慢する人はとても多い」と岡さんは指摘する。

 女性にとって乳房を失うことは心理的負担が大きく、「病気になったのだから医療用の下着を使うしかない」と諦めたり、「採寸時に傷を見られるのに抵抗がある」といった“2次ストレス”を抱えるケースもある。

 共同研究は、こうした患者たちを救いたいと願う看護師らの働きかけで始まった。

違和感、痛み軽減 

 岡さんは20〜60代の患者46人に、セミオーダー品の満足度や装着感をアンケート。術後1カ月から着用しても違和感や痛みをほとんど感じないことが分かった。ある30代の患者は「手術をして下着は何でもいいと思ったけど、やっぱり女を捨ててはいけません」と感想を寄せた。

 「病気になってもおしゃれを楽しみ、女性らしくありたいという患者さんの願いを、“岡山発”の動きとして全国でかなえていきたい」と岡さんは話す。

 取り組みは患者会やブログなどで広がり、岡さんには関東地方から講師の依頼が舞い込むこともある。病院などからの問い合わせもあり、同社はアドバイザーの育成に力を入れる計画だ。

 岡山大病院形成外科長の木股敬裕教授は「専門アドバイザーの存在は心強い。医療でフォローしきれない部分で患者を支えてほしい」と期待する。

ズーム

 乳がん治療 外科手術を基本とし、放射線、薬物療法を組み合わせて行う。手術はがんの大きさ、場所、進行度などによって乳房温存術と乳房切除術に分かれる。切除後の乳房再建は、患者自身の組織を移植する自家移植▽シリコンインプラントを使った人工乳房▽エキスパンダー(医療用風船)を一時的に使用―の三つの方法がある。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年04月26日 更新)

タグ: がん女性岡山大学病院

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