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心不全治療の最前線 人工心臓、移植に頼らぬ心筋再生も 心臓病センター榊原病院 坂口 太一副院長講演

心不全治療の最前線を紹介する坂口副院長

 心臓病センター榊原病院(岡山市北区丸の内)の市民公開教室が12日、同所の岡山市民会館であり、カテーテル治療のビデオ上映やベテラン医師らの解説を通して、約500人が心臓病治療への理解を深めた。大阪大病院から今春着任した坂口太一副院長(心臓血管外科)は「ここまで進んだ心不全治療」と題して、人工心臓や移植、再生治療の最前線を紹介した。以下は、坂口副院長の講演要旨。

 心不全は、心臓のポンプ機能が失われ、臓器への循環障害が生じた状態。治療法は、比較的軽症だと飲み薬を使った薬物治療。進行すれば手術が必要だ。健康な心筋細胞がほとんど残っていないほど悪くなると人工心臓や移植が必要になる。

 3月まで勤務した大阪大病院の患者を例に、話したい。

大きな差

 30代の女性で、2009年に劇症型心筋炎と診断された。心臓自体が回復する可能性はゼロで、命を救う方法は移植だけ。移植の機会が現れる目安は約3年でこの間、女性には人工心臓が必要になる。しかし当時、保険適用になるのは古い体外式しかなく、大きさは冷蔵庫ほどもあった。

 女性は装着から約半年で人工心臓の効果が薄れ、容体が悪化した。09年の年越しが危ぶまれもしたが、10年、ぎりぎりのところで体外式から、現在は保険適用となっている体内植え込み型に交換した。女性は退院して自宅で移植の機会を待ち、11年暮れに移植を受けた。

 データでは、体外式だと、半数は合併症により約2年で亡くなり、女性のように心臓の左右に装着した場合、移植を待つ間にほぼ全員が命を落とした。大阪大病院は体内植え込み型を多くの患者に取り付けたが、ほとんどが生存している。差は大きい。

90%前後 

 国内での心臓移植の現状を紹介する。1999年、大阪大病院が臓器移植法施行後の第1例を行った。法律が厳しいために臓器提供者(ドナー)はなかなか現れなかったが、本人の意思が不明の場合は家族の承諾で提供可能とした法改正(2010年)の結果、ドナーは増えた。

 移植成績は、10年後の生存率が90%前後。世界平均の60%弱と比べると、ずばぬけて良い。それなのに、多くの場合は、移植の機会を待たずに命を落としている。法改正でドナーが増えたとはいえ、やはり、欧米と比べると圧倒的に少ない。

血管が増殖 

 人工心臓や移植に頼らない心筋再生治療が、国内で動きだした。

 治療には、患者の太ももから採取して培養、シート状にした筋芽細胞を使う。筋芽細胞からは、血管を増やす血管増殖因子が出ている。心臓の傷んだ部分にシートを張ると、血液が通いやすくなることで心筋が再生し、心臓の機能が良くなる。

 大阪大病院は2007年、拡張型心筋症の50代の男性に治療を行った。心臓の機能は回復し、人工心臓から離脱した。現在も元気に過ごしている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年05月21日 更新)

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