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(5)重症心身障害児の医療と福祉―輝いて生きるために 旭川荘療育・医療センター院長旭川児童院院長 井上英雄

いのうえ・ひでお 岡山大医学部卒。専門は小児神経学、睡眠、子どもの心の問題など。岡山大臨床教授、岡山済生会総合病院院長代理などを経て2010年から旭川児童院院長、12年4月から現職。川崎医療福祉大特任教授。

 重症心身障害児(重症児)とは重い知的障害と重度の肢体不自由(運動障害)とを併せ持っている子どもをいいます=図(大島の分類)参照

 これらの子どもは脳に重い障害を受けており、多くは言葉の理解が不十分で、話すことができません。また立って歩くことができず、いわゆる寝たきりの人も多いのです。最も重い「超重症児」は多くの場合、人工呼吸管理、気管切開、胃瘻(いろう)などを受けています。

このような重症児(以下、18歳以上を含む)は、全国でおよそ3万8千人いると推定されています。そのうち1万2千人は施設に入所していますが、残りの2万6千人は自宅で過ごしています(在宅重症児)。岡山県の重症児は959人と推定されています。

 重症児の原因は大きく分けると、出生前の原因、周産期(出産時や新生児期)の原因、および出生後の原因に分けられます=表(障害の原因)参照。すなわち、誰にでも起こり得る原因が多いのです。また、高齢になると脳卒中などでいろいろな障害が起きますから、「障害」は特別な存在ではありません。

 重篤な脳の障害はさまざまな症状や状態を引き起こします。先に述べた運動障害、言語障害のほかに、感覚過敏や感情の強い起伏、不眠などがあり、てんかんを合併することもあります。日常の生活では移動、食事、入浴、排泄(はいせつ)など多くの助けが必要で、重症児の施設では職員が、家庭ではご家族がこの人たちの命と生活を支えています。在宅重症児の養育は大変で、介護者は自分の睡眠時間を削ってお世話をするなど、過重な負担がかかっており、社会の支援が最も必要な人たちといえます。

 一般には見過ごされることも多いのですが、寝たきりと見える人たちも多くのことを観察しており、非常に敏感に感じ、喜び、悲しみ、周りの人たちと生活を楽しむことを願っています。

 あらゆる命を慈しみ大切にすることは、日本民族の誇れる文化の一つです。この重症児の人たちを一人の存在として支え、社会の一員として迎え入れなければなりません。重症児の福祉と医療の基本は、今を幸せと思える生活を一日でも長く、楽しんでいただくことです。このために、旭川児童院では多くの職種(福祉士、保育士、支援員など)の人が協働して、散歩、バス旅行、海水浴、子どもまつり、夏祭り、音楽活動、誕生日、成人式などいろいろな行事を行っています。

 旭川児童院と療育園は、障害児の入所施設と同時に、医療を行う病院でもあります。重症児は、急性期の障害の後遺状態であることが多く、脳損傷自体の根本的な治療は難しいことが多いけれども、表われる症状に対する治療や予防が必要です。例えば、筋緊張や関節拘縮に対する理学療法、整形外科的処置、呼吸管理やてんかんの治療などです。

 また重症児は抵抗力も弱く、誤嚥(ごえん)による感染、胃腸障害、骨折などの二次的な病気の治療も必要です。重症児の医療は専門的な知識と技術が必要な特殊な領域です。ここでは、医療と療育は一体となって行われます。

 重症児が重い病気になったとき、日頃関わりの少ない病院を受診することはコミュニケーションの問題や長い待ち時間などで困難が伴います。旭川荘は利用者が安心して利用できるようにと、従来の療育園と児童院を統合して、障害児(者)専門の新しい病院「療育・医療センター」を建設中であります。病床は422床で、2014年秋に完成の予定です。とくにNICU(新生児集中治療室)後の患者さんの受け入れや家庭復帰、障害者の一次救急の診療も検討しています。

 今後、福祉と医療が充実し、障害者と障害を持たない人が共生し、障害者も気兼ねなく輝いて生活できる社会(ノーマライゼーションの社会)の実現が望まれています。

 =おわり
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年05月21日 更新)

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