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乳がんと私(2) おおもと病院 名誉院長 山本泰久

 おおもと病院で乳がん治療を始めて、5千人以上の患者さんと出会っている。乳腺良性疾患の患者さんは、その何十倍にもなるだろう。最近でも当院の乳がん手術数は、岡山県内でトップクラスにある。患者さんに学び、切除標本の病理組織、顕微鏡所見から学ぶことは多い。

 乳房検診、乳がん術後再診(年1~2回)の他に、幼児から100歳近くの方まで乳房の相談に来られるので、今も毎日多くの方々にお会いしている。術後5年以上たった古くからの患者さんは「がんと闘った戦友」といった感じで、四季やご家族、お孫さんの話などもする。帰る時に「先生も元気で長生きしてね。また来年」などと声をかけていただくのは、医者としてありがたく思う。

 がん治療の長い道のりを振り返ってみて、治療法の変遷は10~15年ごとに「流行」のようなものがはっきり感じられる。それをがん統計で10年生存率でみると、50年前から1期がん生存率は90%である。最新診断機器、多様な抗がん剤、ホルモン療法、放射線治療を含めて、ここ30年間の進歩はめざましいものがあるが、結果は期待しているほどではない。やはり形ばかりで、中身が伴っていないと言うべきで、治療法の変遷の中でQOL(生活の質)向上という言葉とは裏腹に、がん治療はそれほど進歩していないのではないだろうか。

 私は外科医として、患者さんの苦痛や経済的負担を少なく、検査や治療の無駄を省くよう努力してきた。ところが今、医療界でもマニュアル大好き人間が増加し、自立した感性が失われているように思う。屋上屋を架すような検査や治療が喜ばれる最近の風潮をみて、医療の将来を心配するこのごろである。

(2011年6月9日付山陽新聞夕刊「一日一題」)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年05月31日 更新)

タグ: おおもと病院

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