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何が正義か? おおもと病院 名誉院長 山本泰久

 人々は昔から理想郷を求めてきた。夢の桃源郷である。それは王様でさえこの世の中が、いかにも住みにくかったことの証明であろう。ある人は理想郷を求めて現実社会から逃げ出す。ある人は現実社会の中で自分の道を主張し、まわりのことは気にしない生き方をする。夏目漱石が書いた「坊っちゃん」は後者に当たるが、坊っちゃんは人間性豊かで、人道と勇気と若者のもつ正義感がトレードマークであろうか。

 私も若いころは、旧制高校で坊っちゃんのような生き方をしたいと思って頑張った。岡山大学での生活もかなり坊っちゃん的で、外野席から物を見ることが多かった。医局長になり内野側に立たされたが、この習慣がなかなか直らず、しばしば教授から小言を食ったものである。しかし当時の教授はほとんど、坊っちゃんから教授になった人たちであったので「泰久君」と私をよくかわいがってくださった。「泰久が言うから仕方なかろう」と言ってくださったことも多かった。

 1965年ごろから次第に世の中の若者が坊っちゃん的でなくなり、理解しにくい人が増え始めた。新人類が新人類を生み、私の方は老化して坊っちゃん的勇気を見失っていくのを感じている。世の中が悪くなったとよく言っているが、どうして良くしようと努力しないのか、ということに問題がある。

 自分たちのまわりの人たちに、人のためになることなら少々自分が損をしてもよい、譲歩するような教育が要るのでは? 「大の虫を生かして小の虫を殺す」ことであるが、自分のことになると小を生かして大を殺すような人が多いように思える。人生の本筋、社会の本道を見る目を教えることから始めなければ、多くの坊っちゃんは生まれない。

(2011年6月30日付山陽新聞夕刊「一日一題」)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年05月31日 更新)

タグ: おおもと病院

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