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「思いやり」と「おもてなし」 岡山赤十字病院長 忠田正樹

 「ホスピタリティー」という言葉がある。人を保護する言動、人に対して思いやりを持って接する心得といった意味である。

 私は、医療はホスピタリティーを基本に、治療技術を提供するサービス業だと思っている。ただ、同じサービス業といっても、例えば東京ディズニーランドや一流ホテルなどと大きく異なる点がある。一方は訪れる人が満足を求め、楽しみを期待する場所なのに対し、病院はみんな不安を持って訪れ、提供される検査や治療はしばしば身体的苦痛さえ伴うという点だ。

 従って一般のサービス業では、顧客の希望を満たすべく「おもてなし」の心得で楽しさを提供し、満足してもらえれば業務は達成される。

 ところが、病院の場合は楽しみを満たすのが目的ではなく、不安や苦痛を持ちながら恐る恐る来院される方がほとんどだ。その時、医療を提供する側に第一に求められることは、不安感を受け止めて理解し、安心感を与える「思いやり」の気持ち、つまり「ホスピタリティー」で対応することだ。

 いや、ホスピタリティーよりも「優秀な医療技術」が何よりも大事だとか、「施設環境の快適さ」を十分に確保すべきだという意見もあろう。もちろん、これらも重要だが、やはりそれ以前に「思いやり」のある対応が、まずは基本であると考えている。

 病院職員の対応が良くなければ、いくら最高の医療を受けられても、何らかの不満が残るはずだ。このため、毎年、職員を対象にした接遇研修を実施している。職員は医療技術だけでなく、同様に心のこもった接遇も提供したいと、毎日緊張の続く慌ただしい職場の中で努力している。

(2012年5月22日付山陽新聞夕刊「一日一題」)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年05月22日 更新)

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