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(6)乳房編 川崎医大総合外科学准教授 川崎医大川崎病院外科副部長 中島一毅

なかしま・かずたか 福岡県立修猷館高、山口大・同大学院卒。医学博士。国立療養所山陽病院、川崎医大乳腺甲状腺外科学講師などを経て2012年4月から現職。日本乳癌学会乳腺専門医、日本外科学会外科専門医、日本超音波医学会超音波専門医、日本がん治療認定機構がん治療認定医。

乳腺の構造

乳房超音波検査

 乳房は女性のシンボルともいうべき臓器ですが、本来の役割は乳汁を分泌して赤ちゃんを育てることです。乳汁を産生して乳首まで運ぶ器官を腺葉(せんよう)と呼び、これが片側15本ほど集まり乳首までつながったものが乳腺です。乳房は乳腺と脂肪や繊維質、皮膚や乳頭とで構成された房状部分全体の名称です。乳腺外来を受診される多くの方は乳房のしこりを訴えられますが、原因として多いのが乳がんと乳腺線維腺腫、嚢胞(のうほう)です。

乳がん

 現在、乳がんは多くの先進国で女性罹患率の1位となっており、がんの中では目にすることが多い病気です。ご親類やお友達にも乳がんで治療を受けた、乳がんが疑われた方がおられるのではないでしょうか?

 でも、大丈夫です。乳がんは罹患率の高さから医学研究による検診~診断~治療システムが進んでいる病気で、すでに検診受診率の高い国々では発生率は増加しているのに死亡率は低下している状況にあります。日本は受診率が低いため、現在も死亡率が増加し続けていますが、少なくともきちんと乳がん検診を受けて、要精査(何らかの異常が疑われる)時に、乳腺専門医を受診すれば多くの場合助かります。川崎医大での2センチ以下の乳がんの10年生存率は95%以上です。

 きちんとした診断・治療を受ければまず長生きできることから、治療にはむしろ術後生活が重要になります。特に整容性(術後の乳房のかたちがいかに美しいか)が大切で、社会人として、女性、妻、母親としての術後生活に少なからず影響を与えるものです。小さく診断されれば美しい術後乳房となることから、小さく発見することに有用なマンモグラフィー検診を受けることが大切になります。ぜひ、マンモグラフィー検診を受けてください。

乳腺線維腺腫

 性成熟期女性の乳房に発生する良性腫瘍です。自覚しやすくなる2センチ程度で受診される方が多いようです。

 良性ですから基本的に治療は不要なのですが、成長し大きくなることもあり、乳房のかたちが悪くなったり、乳管圧迫による授乳障害や、周りの乳腺に痛みを生じたりすることもあります。切除すれば正常乳腺が回復するので元通りの美しい乳房に戻ることが可能なのですが、切除時に正常乳腺を過剰にとったり、乳房に大きな傷をつけたりしてしまうと、後に乳房変形などをきたすことがあります。将来、マンモグラフィー検診を受けた場合、乳房の傷や切除部が瘢痕(はんこん)様に描出され、検診精度が低下することもあります。

 川崎医大では乳腺良性腫瘍には内視鏡を併用した手術を導入しており、腋窩(えきか)部や乳輪色素の境目から手術を行い、術後の傷や変形を防止するように工夫しております。すでに10年以上実施しており、手術後にマンモグラフィー検診を受けた方もおられますが変形等は指摘されておらず、授乳も順調にされておられます。

嚢胞

 乳腺の「腺」というのは液体などを分泌する臓器を意味します。この液体が授乳期に分泌され、乳首に運ばれるのが授乳という状態です。ただ、授乳期以外にも「腺」は活動しており、月経前に乳房痛などを生じることがあります。この分泌液が何らかの理由でたまったものを「嚢胞」と呼びます。

 本来、正常な乳腺の現象で病気ではありませんが、しこりとして自覚されますので乳がんとの鑑別が必要です。乳腺外来では多く遭遇するもので超音波検査で簡単に診断できます。しこりを自覚した場合には強い不安を感じるものです。すぐに乳腺専門医を受診し、安心されることをおすすめ致します。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年06月18日 更新)

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