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(41) 網膜硝子体手術 倉敷成人病センター 岡野内 俊雄 眼科部長(46) 繊細、正確な技で2000例 治療レベル向上し低侵襲

全ては患者さんのために、と腕を磨くのに余念がない岡野内部長。勉強会を通したかかりつけ医との情報交換にも熱心だ

【網膜と硝子体】外からの映像をとらえる網膜は、脳で映像を再現するための情報を、視神経を介して送る。黄斑は網膜の中で最も大切な部分。硝子体は、角膜や水晶体と同じく、映像が網膜に映るまでの光路(こうろ)でもある。

 夕暮れの診察室。岡野内俊雄が、1枚のリストを見せた。

 記されていたのは患者数人の名前。「今はないけれど、有効な治療手段が出たらすぐに連絡できるようにね」

 岡山県内で専門的技術を持つのは少数という網膜硝子体手術を担う。「最前線で“視生活”を支えてくれている」と岡野内が話すかかりつけ医からの患者が多く、これまで約2千例を手がけてきた。

 岡山大医学部卒業後、広島市や愛媛県新居浜市の病院に勤めた岡野内。白内障などの手術を通して力をつける一方、ケースによっては限界を感じた。糖尿病の合併症で失明の恐れがある「増殖糖尿病網膜症」もそう。重症化したときの治療法はこの手術だったが、若い岡野内は技術がある病院に患者を依頼するしかなかった。

 今の網膜硝子体手術は、1970年代に原形ができた。

 角膜そばの毛様体付近に微小な穴を三つ作る。一つは処置で必要な剪(せん)刀(とう)やカッター、眼内鉗(かん)子(し)を挿入するため、一つは眼内を照らすライトを入れるため、もう一つは眼球の形を保つかん流液を流す管を差し込むため―だ。挿入した手術器具で、原因となる悪い組織を取り除く。

 岡野内に教えたのは、母校の白神史雄眼科助教授(現香川大医学部眼科教授)だった。この分野では現在、世界的権威である。

 岡野内は大学に戻り白神の弟子となり、眼球内というミクロの世界で必要な、繊細で正確な技術と集中力を身に刻んだ。厳しさと優しさを併せ持った師の背中を通して、理想の医師像も固めた。鬼手仏心―。岡野内の今が築かれた。

 「ここ10年の機器と手術手技の革新による治療レベルの飛躍的向上は、患者さんにとって何よりの朗報」と岡野内は言う。

 現在の網膜硝子体手術は、網膜の重要部分・黄(おう)斑(はん)に穴があき視力低下をもたらす「黄斑円(えん)孔(こう)」などの黄斑疾患から、長期化した網膜剥離が元で失明が懸念される「増殖硝子体網膜症」まで広く対象としている。

 手術器具の性能向上で、あける穴は1ミリから今は0・5ミリに。以前のように結膜を切開する必要もなくなり、患者への負担を劇的に軽くした。また、眼内全体をシャンデリアのごとく照らすライトの登場は、手術器具を操る両手の自由度を高め、より緻密に病変を処置できるようにした。

 光干渉断層計(OCT)の技術革新も見逃せない。黄斑の詳細な断層撮影が実現したことは、病態の解明に大きく貢献。最近では、強度近視で起こる「黄斑分離」のメカニズムを明らかにし、その結果、手術での治療が可能となった。

 「機器や術式が進歩しても、術者が駆使できなければ、患者さんにとって何の意味もないんです。術者も常に進歩を求められます。楽なことではないですが、その先に患者さんの幸せがあるわけですから」

 リストから患者の名前が消える日を思って、手術室に向かう。

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 おかのうち・としお 広島大付属高(広島市)、岡山大医学部卒。2006年から現職。同学部医学科臨床教授も務める。趣味は、医学生時代にレース参戦もした「自動車の運転」とゴルフ。

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 外来 眼科受付は月~金曜日(祝日休診)午前8時半~11時半。予約制。岡野内部長は月、火、金曜日の午前に診察。かかりつけ医の紹介状持参が望ましい。予約は、紹介状があれば地域医療連携室(086―422―2116)、なければ予約センター(086―422―2112)。いずれも平日に受け付ける。

倉敷成人病センター

倉敷市白楽町250
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年06月18日 更新)

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