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心臓移植 なぜ未実施? 岡山大病院 小腸、膵島も

心臓、小腸、膵島の移植が未実施の岡山大病院。病院内の準備は整っているが、それぞれの事情からまだ実現していない

 国内最多の症例を誇る肺移植をはじめ、肝、腎移植に取り組む岡山大病院(岡山市北区鹿田町)。中四国地方の「移植センター」として多くの患者を救う一方、準備は整うが、未実施の移植もある。「心臓」「小腸」「膵島(すいとう)」がそれだ。2010年施行の改正臓器移植法により脳死ドナー(臓器提供者)が急増するなど、移植医療を取り巻く環境が進展する中、なぜ実施できないのか。実情を報告する。

 まず、心臓。岡山大病院は10年に心臓移植施設として認定された。中四国で唯一の拠点だが、症例経験がなく、現在は11歳以上の患者にしか移植できない。佐野俊二心臓血管外科教授によると、臓器斡旋(あっせん)を行う日本臓器移植ネットワーク(東京)への登録患者は10代前半と60代の2人。

 全国の登録者(5月末現在)は214人。移植ネットによると、斡旋の順番は待機期間や血液型などを考慮。ドナーが18歳未満の場合、登録時に18歳未満の患者を優先する。移植患者の平均待機期間は約2年8カ月で、岡山大病院の患者の順位は時間とともに上がっているとみられる。

 同大病院は臓器提供病院での臓器摘出から移植までの手順を確認するシミュレーションを10年に実施。佐野教授は「摘出から血流再開までの猶予が4時間と短く、迅速な臓器搬送が必要。万全の体制で臨む」とする。

全国でも3人

 小腸は腎、肝臓などに比べ、脳死移植数が圧倒的に少ない。1997年の法施行からの脳死移植はわずか12例。腎臓223例、肝臓153例の10分の1以下だ。八木孝仁肝胆膵外科教授によると、患者の少なさや術後管理が難しく、生存率が向上しなかったことが要因という。

 適用疾患は腸が短かったり、栄養吸収機能がないなどの病気だが、全国13施設からの移植ネットへの登録(5月末現在)は3人。岡山大病院もゼロだ。

 移植後は他人の臓器が体内に入ることで起こる拒絶反応を防ぐため、免疫抑制を行う。小腸は免疫に関係するリンパ球が多く、他臓器よりも制御が難しいが、バシリキシマブといった新たな免疫抑制剤が登場。既存薬剤との組み合わせで効果を高められるという。

 初の移植では、京都大医学部付属病院など経験のある病院に協力を仰ぐことも検討。「移植しか治療法がなくなった患者さんを救えるよう全力を尽くす」と八木教授はいう。

人手不足

 膵島移植はインスリンを分泌する膵島細胞を膵臓から抽出し、小児に多い1型糖尿病患者らの肝臓にカテーテルで注入する治療法。岡山大病院は昨年11月、中国地方では初の実施施設に認定された。

 腹部を開く膵臓移植とは異なり、身体的な負担が少なく、心停止ドナーからも提供を受けられる。

 細胞抽出を担当する岡山大大学院医歯薬学総合研究科の野口洋文客員研究員は「院内体制はほぼ出来上がった。患者さんも1人登録作業を行っており、7月に終わる」という。

 最大の問題はドナー情報の入手。膵島移植は臓器移植ではなく組織移植のため、移植ネットから情報を得ることができない。斡旋を担う西日本組織移植ネットワーク(大阪府吹田市)も、人手不足などから提供は関西圏に限られており、中国地方にまで手が回らない。野口客員研究員は「関係団体と連携を取り、一刻も早い実施を目指す」としている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年06月25日 更新)

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