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(42) IVR 川崎医大川崎病院 三村 秀文教授・放射線科部長(50) ミクロの手技、透視画像駆使 カテーテル使い肝がん兵糧攻め

新病院にはIVRセンターを開設予定。年間300例以上、針の穴を通すような手技を行っている三村教授のチームもさらなる活躍が期待される

 医師が乗り組んだ潜航艇をミクロサイズに縮小して血管内へ送り込み患部を治療する―ひと昔前はSF映画だった世界が今や日常の医療になった。三村が専門とするIVR(インターベンショナル・ラジオロジー)は潜航艇こそ登場しないが、透視画像を駆使し、切らずに治すミクロの手技が詰まっている。

 例えば肝臓がんの動脈塞栓術。がんが栄養を取り込む動脈に抗がん剤とゼラチンスポンジを詰め、血流を絶って兵糧攻めにする。

 太ももの付け根の大腿だいたい動脈から肝臓の肝動脈へカテーテル(細い管)を入れる。外径約1・4ミリの親カテーテルを通し、深部の枝分かれする動脈に沿って繰り出す子カテーテルは約0・6ミリの極細のチューブ。「正常な部分を温存して狙った領域だけを詰めるため、より細いカテーテルが必要になる」と三村は説明する。

 カテーテルの曲がった先端が血管壁に引っかかると、ピクリと手応えがある。どの位置で血管が分岐するかすべて頭の中にある。ナビの役割をする透視画像やCT(コンピューター断層撮影)で位置を確認し、先へ進んでいく。

 「これからの医療は画像が読めるようにならないと」と志した放射線科医。岡山大の関連病院に勤務し、肝臓に膿がたまる肝膿瘍の患者を診察した。超音波画像を見ながらチューブを入れて膿を排出してやれば早く治るが、当時は手技を習得していなかった。「IVRを学びたい」と思いを定めた。

 専門医がいる聖マリアンナ医大病院(川崎市)で研修。上級医の手技を見て学び、少しずつ任せてもらって体で会得した。画像処理で血管だけを浮き上がらせるDSA(デジタルサブトラクション血管造影)など、日進月歩の技術革新も後押し。雲の上のような高難度に思えていた手技も「やってみればできた」という。

 米アイオワ大に客員助教として留学した1年7カ月、毎日4件、年間800件のペースで手技に明け暮れた。臓器移植患者のIVRも数多く手がけた。

 狭窄した血管のつなぎ目で風船を膨らませ、筒状の金属ステントを挿入して血流を回復するIVRは移植に欠かせない。岡山大病院に復帰すると、外科チームと連携して多くの移植患者を救った。

 川崎病院へ赴任した三村は今、2015年度の新病院開院に備えて診療体制を充実させると同時に、もう一つ重責を担っている。難治性血管腫・血管奇形の厚労省研究班の代表者に任命されたのだ。

 動脈と静脈が毛細血管を経ないで直結してしまうなどの異常で、重症になると出血や心不全で命にかかわることもある。IVRで液体の塞栓物質を流し込む治療法があるが、患部を狙って詰める手技は難度が高く、治療施設は限られる。

 「患者が少ないので治療薬の臨床試験もなかなか進まない。医療と行政、産業界が一体になって取り組まないと救済できない」。先端医療の現場で患者に心を寄り添わせている。 

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 みむら・ひでふみ 山口県立下関西高、岡山大卒。姫路聖マリア病院医長、米アイオワ大客員助教を経て岡山大大学院講師、同准教授を歴任。昨年4月から現職。日本IVR学会専門医。学生時代は軟式テニスで活躍した。

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 IVRのラジオ波治療 がんに対するIVR治療は動脈塞栓術のほかに、腫瘍に電極針を刺し、ラジオ波(電磁波の一種)を発生させて熱で壊死(えし)させるラジオ波凝固療法がある。従来は超音波で腫瘍を見ながら針を刺していたが、CT透視下での治療が可能になった。超音波が届きにくく死角になる深部でも、鮮明なリアルタイムのCT画像が得られ、ラジオ波の適応が広がっている。保険適用の肝臓がんに加え、肺がんや腎臓がんでの臨床も始まっている。

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 外来 三村教授の外来は毎週水曜日午前(8時30分~11時30分受け付け)。かかりつけ医の紹介状持参が望ましい。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年07月02日 更新)

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