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(3)息のはやい子、くちびるが紫色の子 倉敷中央病院小児科部長 脇研自

 わき・けんじ 修道高、広島大医学部卒。中国労災病院、水島協同病院を経て1989年から倉敷中央病院小児科、2001年から現職。日本小児科学会専門医、日本小児循環器学会専門医・暫定指導医。医学博士。

 今回はこどもの心臓病のお話です。

 Kちゃんはこどもの森に住む5歳の女の子。1カ月ほど前に待望の弟(Mくん)ができました。うれしくてたまりません。しかしKちゃんには最近ちょっと心配なことがあります。何でしょうか? それでは、こどもの森をちょっとのぞいてみましょう。

心臓と肺は二人三脚-「息がはやい」も心臓病の症状

 弟のMくんは生まれて数日して心臓に雑音があるといわれました。森の大きな病院で、心臓の部屋と部屋の間の壁に大きな穴(心室中隔欠損)があいていることがわかりました。ちょっと前まではミルクをごくごくよく飲んで元気いっぱいだったのに、近頃は飲む量が減り、ゆっくり休み休み飲みます。また、息がはやく荒いのがだんだんとめだつようになっていました。生まれてすぐは元気だったのに、しかも肺の病気ではなく、心臓の病気なのに、なぜ息がはやく荒くなるのかがわかりません。そこでKちゃん、森の奥に住んでいるという物知り博士(A博士)を訪ねて聞いてみることにしました。

 森の中を1時間ほど歩いてやっと博士の家をみつけました。博士に尋ねてみました。

 「弟のMくんは心臓に穴があいているらしいの。生まれたときはすごく元気だったのに、どうしてだんだん息がしんどくなってくるの?」

 すると白髪のA博士、「それはな、心臓と肺は持ちつ持たれつ(二人三脚)ということなんじゃよ。一方(心臓)がしんどくなるともう一方(息)もしんどくなってくるんじゃ。心臓の壁に穴があいていると、その穴を通って肺に流れる血液が増えてくるんじゃ(イラスト参照)。そうなると太くなった肺の血管が空気の通り道を狭くしたり、肺が湿ったような状態になるため息がはやく(多呼吸)、荒く(陥没呼吸)なるんじゃよ」。

 Kちゃん、まだ納得がいきません。

 「でも、生まれたころは元気だったのに」

 「そうじゃな。それはな、生まれてしばらくはお母さんのおなかにいた頃(胎児期)の影響が残っとるんじゃが、それがだんだんととれてくるにつれて穴を通って肺のほうに流れる血液が増えてくるんじゃ。生まれて2カ月頃がピークと言われておる。その頃に症状がでてくるんじゃ。心臓は余分に働かないといけないので眠っていてもいつも走っているようなものなんじゃ。静かにしてるのに心臓は速く打ち、汗が多くなる。つまりぎりぎりで頑張ってるんじゃな。でも大丈夫。自然に閉じてくることもあるんじゃが、閉じないようなら手術で穴を閉じてあげれば息がはやいのもなくなり元気になるので心配ないよ。わかったかな」

 「うん、よくわかった」とKちゃん。

酸素の少ない血液が混ざると紫色のくちびるに

 好奇心旺盛のKちゃん、さらに疑問が湧いたようです。「近所のFちゃんも心臓の病気なんだって。Fちゃんはいつもくちびるが紫色をしているの。どうして?」

 A博士は答えました。「心臓の病気にはくちびるが紫色になるもの(チアノーゼ性)とならないもの(非チアノーゼ性)があるんじゃ。酸素の多い血は明るい赤色を、酸素の少ない血は暗い赤色(紫色)をしておる。みんなのからだには酸素の多い血が流れておるんじゃが、酸素の少ない血が心臓の穴を通って体のほうに混ざると、くちびるや爪が紫色に見えるようになる。これがチアノーゼじゃ。Fちゃんはおそらくこれじゃな」

 「酸素の少ない血が混ざって大丈夫なの?」

 「生まれつき酸素が少ないのに慣れているから、よほど少なくならなければ大丈夫なんじゃ。でも酸素の少ない高い山(3000メートル級)の上にいるようなものなので、走ったりするとすぐに息がきれたりする。いずれは酸素の少ない血が混ざりあわないように、手術をしてあげる必要があるんじゃよ」

 「私たちには何でもないようなことでも、MくんやFちゃんはすぐにしんどくなるので気をつけてあげないといけないということね」

 「そういうことじゃな」

最後に

 こどもの心臓病(先天性心疾患)の症状について物語風に書いてみました。今ではこどもの心臓病の診断や手術、管理の向上により心臓病のこどもさんの多くが助かるようになってきました。こどもさんが元気に成長していかれるよう、われわれこどもの森の小児科医は少しでもお役に立てればと考え、力をあわせて日々診療を行っています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年07月02日 更新)

タグ: 子供倉敷中央病院

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