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(3)うつ病の診断 川崎医大川崎病院心療科部長・川崎医大精神科学教授 石原武士

 いしはら・たけし 岡山芳泉高、岡山大医学部卒、岡山大大学院修了。ペンシルベニア大医学部神経変性疾患研究センター留学。高梁病院、岡山大学病院などを経て2011年から現職。精神科専門医、精神保健指定医・判定医、日本認知症学会評議員。

うつ病の診断について

 「精神科医はどうやってうつ病かどうか決めるのですか?」という質問を受けることがあります。これは自然な疑問だと思います。

 血圧や血糖値のように数値で表せるものであれば、患者さんと医師とが同じ検査結果を見ることになりますが、うつ病をはじめとする心の病の場合、患者さんには、精神科医が主観で判断しているように見えることがあるかもしれません。しかし、もちろんうつ病にも診断基準があり、その一つの例は、今回の「うつを知る」シリーズの初回(6月4日付メディカ)でも紹介されました。他にも診断基準はありますが、気分が憂うつになることや、興味や喜びの感情がなくなることが重視されているなど、いずれも似通った内容になっています。

うつ病以外の気分の病気

 うつ病を含む気分の病気は気分障害または感情障害と呼ばれます。うつ病は気分障害の代表的なものですが、気分障害の中には、躁そう病、躁うつ病(双極性気分障害)、気分循環症、気分変調症など、さまざまな病気が含まれており、それぞれに診断基準があります。

 近年、うつ病と躁うつ病との区別をつけることが重要視されています。うつ病として治療を受けてもなかなか治らなかった患者さんが、実は躁うつ病であることがわかり、適切な治療を受けて回復したというような例もあります。このように躁うつ病がうつ病と診断されている例は少なくないと考えられています。その理由は、躁うつ病の中の躁の症状の内容や程度によっては、患者さん自身も周囲の方も症状とは気付かず、従って診察の際にも話題にならず、見過ごされがちなためです。躁の症状とは、気分が高ぶる、活動性が高まる、口数が増える、イライラする、怒りっぽくなるなどがあります。躁の症状が強い場合には激しい浪費や犯罪につながることもありますが、軽い場合には“少し機嫌が良い”“少し怒りっぽい”という程度のこともあります。

 なお、「うつを知る」シリーズの2回目(6月18日付メディカ)でも紹介された通り、新型うつ病が注目を集めており、雑誌で特集が組まれたりテレビ番組で取り上げられたりしています。しかし、新型うつ病というのは通称であって正式な病名ではなく、今のところ診断基準も定められていません。

うつ症状の程度を評価する検査

 うつ病の診断基準とは別に、うつ症状の程度を数値で表す検査や、うつ病として治療が必要かどうかを見分ける(=スクリーニング)目的で使われる検査があります。これらの検査には、医師が患者さんの言動を観察して評価するものと、患者さん自身が質問項目に答える自己評価によるものがあります。

 医師による評価尺度は薬の効果を調べる臨床治験のときなどに使用されます。臨床治験では、評価が医師によってまちまちにならないよう、参加する医師はトレーニングを受けることになっています。また、自己評価式のものはスクリーニング目的で使われることが多く、短い時間で簡単に答えられるように工夫されています。ここでは厚生労働省が提案した「心の健康度自己評価票」を表に示します。自己評価式の検査は他にもたくさんあります。よく使われるものとしては、Beck’s Depression Inventory(BDI)、Zung Self-rating Depression Scale(SDS)などがあり、インターネットで検索すると簡単に見つかります。

 なお、自己評価式の検査はスクリーニングが主な目的であり、それだけで診断することはありません。つらいことがあって落ち込んだときに検査をすればうつ症状が強いという結果になるかもしれませんが、それだけではうつ病とは言えません。もちろん、検査の結果にかかわらず、憂うつな気分が続くなど、気分の元気具合が気になるときにはぜひ一度専門医に相談してみてください。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年07月02日 更新)

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