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(4)小さく生まれたこどもたち 倉敷中央病院総合周産期母子医療センター主任部長 渡部晋一

わたべ・しんいち 私立城北高(東京)、山口大卒。広島大医学部付属病院、広島赤十字・原爆病院などを経て、1992年12月倉敷中央病院小児科、2008年から現職。日本小児科学会専門医、日本周産期・新生児医学会新生児専門医制度(暫定)指導医。

 さて、続いて見えてきましたのは、NICU(新生児集中治療室)と言う小さく生まれたこどもたちの森です。どの子も皆、大人の拳くらいの大きさで、モミジよりかわいい小さなお手々を持っていますね。お口には管が入っていて、そのそばでは、シュボシュボと音を立てながら器械が動いていますよ。さあ、小さいこどもたちの森に行ってみましょう。

超早産児

 赤ちゃんはお母さんのおなかの中に約40週います。ところが、超早産児と言って、28週よりも早く生まれてしまうこどもたちもいます。小さく生まれたこどもたちの森には、超早産で生まれたこどもがたくさんいますね。さっきからシュボシュボと聞こえていた音は、赤ちゃんのそばにある器械からです。この森のこどもたちは、まだ自分で息をすることができません。そこで、先ほどのシュボシュボ音のする器械の登場です。

 この器械は「人工呼吸器」と言って、小さく生まれたこどもたちの呼吸を手助けしてくれる器械なのです。口から入っている管が、人工呼吸器につながっていますね。毎日、お医者さんや看護師たちがこの器械を調整していますよ。他にも臨床工学技士と呼ばれる人たちが、器械がきちんと動くように毎日毎日、入念にチェックしていますね。これで、この森のこどもたちは自分で頑張って息をしなくても大丈夫。でも、いつになったら自分で息をすることができるのでしょうか? それはこどもたちが30週くらいになってからです。さらに34週くらいになるとお口でお乳を飲める子もでてきますよ。

 超早産児のこどもたちは長い間、点滴で栄養をあげないといけません。抵抗力もすごく弱くて、大人にとってはたいしたこともない程度のバイ菌でも、超早産児にとっては命に関わるほどの状態になってしまいます。手をしっかり洗って触れてあげましょうね。

母乳栄養

 小さく生まれたこどもたちの胃や腸もまたすごく未熟です。バイ菌がおなかの中に入ると腸を痛めてしまうばかりでなく、命を失うこともあります。そんなこどもたちにとっての最も強い味方はお母さんのお乳=母乳です。母乳の中には、さまざまな免疫物質がたくさん含まれています。超早産児のこどもたちは、生まれてすぐには、まだお口から母乳を飲むことができません。そこで、「お口から胃や腸まで入れた管」を使って母乳をあげます。小さく生まれたばかりのこどもたちは、お母さんの愛情たっぷりの母乳をもらって大きくなっていますよ。

フォローアップ

 NICUの中にある保育器はお母さんのおなかの代わりです。保育器の中で大きくなったこどもたちは、コットと呼ばれるベッドに移り、大きくなって退院する日を待つことになります。超早産で生まれた赤ちゃんも9割以上が退院していきます。300グラム、400グラムで生まれたこどもたちも多くが退院していきます。退院した後も、小さく生まれたこどもたちが元気でいられるように、NICUにいる時から、理学療法士、作業療法士が手助けしてくれます。退院に向けて、お母さんの気持ちに寄り添うように臨床心理の専門家もいますよ。小さく生まれたこどもたちが、行政から支援が受けられるように、医療社会福祉士の人も手伝ってくれます。

 NICUと言う名前の森では、多くの専門家たちが、こどもたちと両親を見守っています。その見守りは小さく生まれたこどもたちが森を去った後も、ずっと続きます。そうです、小さく生まれたこどもたちが大きく社会に羽ばたくまで。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年07月16日 更新)

タグ: 子供倉敷中央病院

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