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(4)うつ病の治療 川崎医大精神科学主任教授・川崎医大病院心療科部長 青木省三

あおき・しょうぞう 広大付属高、岡山大医学部卒。慈圭病院、ロンドン大精神医学研究所、岡山大医学部神経精神医学教室助教授を経て、1997年から現職。精神科専門医、精神保健指定医、日本児童青年精神医学会理事、日本心身医学会理事など。

 うつ病は、一人ひとりで原因や症状も異なり、その程度も軽いものから重いものまであり、治療もそれに応じて異なってきます。ここでは、真面目で責任感の強い人が、仕事や家事を頑張り、疲れ果てて起こる「典型的なうつ病」の治療について説明します。

1、うつ病を理解 してもらう

・うつ病は、「病気」である

 うつ病になると、「自分はみんなに迷惑をかけている。申し訳ない」などと、自分を責めるようになります。でも、本人は「自分が病気だ」とは考えていないことが多いものです。そのため、過度に悲観的になり、悪い方に考えてしまうのは、うつ病という病気の症状であることを説明します。実際、回復し元気になると、「どうしてあの時は、あんなに悪い方にばかり考えていたのだろうか」と話されることが多いものなのです。うつ病はきちんと治療を受けることが必要な病気なのです。

・とても苦しいものである

 気分がゆううつになることは、誰でも経験することがあります。しかし、うつ病のしんどさは、私たちが、普段、経験するゆううつな状態とは異なります。「取り返しのつかないことをしてしまった」という後悔、「悪いことをした」という罪悪感などが、頭のなかをグルグルと回り、悲観的、絶望的な気持ちになっていくのです。「言葉で説明できない苦しみです」と言われた患者さんがおられますが、苦しみの程度は、周囲の人の想像を超えるところがあります。この苦しみを理解することから、治療は始まるのです。

・「怠け」や「気のゆるみ」ではない

 「横着」「甘え」「気の持ちよう」「やる気の問題」などで起こるものではないことを、理解することが大切です。「もっと頑張れ」「やる気を出して」などと励まされることは、多くの場合、「自分はダメな人間だ」という自分を責める気持ちを強めてしまい、逆効果となります。

2、治療の基本は、 休養と充電である

 頑張り過ぎて無理をして、疲労が蓄積し消耗しているのが、うつ病です。治療で最も大切になるのは、休養して力を貯ためることです。うつ病を「ガソリンがなくなった車」などに例えて、「しばらくガソリンを貯める」というように説明し、エネルギーを充電することを勧めるのです。しかし、多くの人が、休みをとるということは、実際にはなかなか決心がつかないものです。仕事や家事に責任を強く感じていて、「同僚や家族に迷惑をかけるので休めません」という人が多いのです。そのような時こそ、家族や上司・同僚の理解と協力が大切になります。

 うつ病の程度が軽い場合は、仕事の量を減らして(省エネで)じわじわと充電していくという方法をとることもありますが、少し貯まったエネルギーを毎日使ってしまうのでなかなか充電できないという場合があり、注意が必要です。

3、「自殺」が頭に浮か びやすいので要注意

 うつ病の時には、「自分は人に迷惑をかけているので、いっそのこと死んでしまった方がよい」などと、自殺が頭に思い浮かぶようになります。これこそ絶対に止めなければならないものなのです。私はよく、「ふと魔が差すように、自殺ということが頭に浮かんでくることがありますが、絶対に思い留まらなければいけません」と話します。そして、本人に「決して自殺をしない」と約束してもらうようにしています。

 その他にも、の(5)(6)(7)も大切なことです。

 最後に、うつ病はしんどくなればなるほど、自分の内にこもりやすく、周囲の人の声が届かなくなるものです。知らないうちに孤立していることが多いのです。ご家族や周囲の人たちの粘り強い支えがとても大きな力となってくるのです。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年07月16日 更新)

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