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(7)肺がん編 川崎医大総合外科学講師・川崎医大川崎病院外科医長 深澤拓也

ふかざわ・たくや 大阪教育大付属池田高、岡山大大学院医学研究科卒。医学博士。岡山大医歯薬学総合研究科消化器腫瘍外科を経て2010年から現職。日本外科学会専門医。

 呼吸器外科の対象となる病気のうちで、最も多いもののひとつに肺がんがあります。高齢化に伴い、日本人の死亡原因の第1位は悪性疾患(がん)であり、2011年の統計によると、がんで死亡した人は約35万3千人、肺がんによる死亡者数は約6万9千人で、がん死亡原因の第1位となっています。

 一般的に肺がんでは外科切除が抗がん剤や放射線治療よりも根治性が高いため、適応がある限り切除することが治療の第一選択となります。がんを含めた一部の肺とその周囲のリンパ節を取り除くこと(肺葉切除+リンパ節郭清)が一般的な手術方法です。肺がんの治療成績を良くするために最も大切なことは、早期の肺がんを発見することと、進行がんを適切に治療することです。

 今回は、最近増えてきている小型肺がんと、新しい治療である分子標的治療についてお話しいたします。

小型肺がん

 胸部CT(コンピューター断層撮影)の普及により小型肺がんの発見が多くなってきています。このような小さい肺がんで特にリンパ節転移がない場合、手術によりほぼ完全に治すことができます。2センチ以下の大きさでその治癒率は80~90%、1センチ以下ではほぼ100%となります。従って、肺がんがなるべく小さい時期に診断し治療を行う必要があります。このタイプの肺がんはその多くが腺がんで、いわゆる肺の早期がんに相当すると考えられています。

 腫瘍が小さく、気管支鏡で診断をつけることが難しい場合、胸に直接内視鏡を挿入するいわゆる胸腔きょうくう鏡検査で診断し、肺がんであった場合原則として、同時に肺葉切除+リンパ節郭清を行います。診断までが1時間程度、その後の治療手術が2時間、合計3時間程度で終了できます。入院期間は術前2~3日と術後10日間程度です。肺がんの患者数は増加しており、さらに画期的な治療法の開発が待ち望まれるところですが、現状では、現在の治療法で治る小型肺がんを見つけることが効果的な対策と考えられます。

分子標的治療

 分子標的薬は、1980年ころからがんの分子生物学が進歩したことによって開発が進みました。がん細胞の増殖や転移については、がんで多く発現している異常なタンパク質や酵素が重要な役割を果たしていることが分かってきました。こうしたがんの成長に関与している分子を標的として攻撃するのが分子標的治療薬です。つまり、分子標的薬は、正常細胞は攻撃せず、がん細胞だけを狙い撃ちにするものです=図参照。

 標的とするがんに特異的な分子のタイプにより薬剤を分類でき、大きく分けて、がんを増殖させるシグナルを抑える「シグナル伝達阻害剤」、がんの成長に必要な栄養補給を絶たせる「血管新生阻害薬」があります。さらに肺がんに関して遺伝子の変化や組織型の違いによって効果的な標的薬剤が異なることが分かってきました。その違いにしたがって、治療薬を使い分けていく新しい考え方の治療は「個別化治療」と呼ばれます。現在、この治療によって、患者さんの生存を延ばすばかりか、副作用も緩和できるようになってきました。

 肺がんが進行し、リンパ節に転移したり、胸壁に浸潤していても切除は可能ですが再発率が高くなります。これは手術前の検査で診断できない微小な転移が多く見られるためです。治療は放射線・抗がん剤療法あるいはそれらに手術を組み合わせた集学的治療が行われますが、これらの分子標的治療薬による治療後に手術を行うことも始まってくると思われます。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年07月16日 更新)

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