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(44) 小児難治てんかん 旭川荘療育・医療センター 大塚 頌子顧問・岡山大名誉教授(65) 子どもたちにずっと寄り添う 新薬開発に尽力

旭川荘では大学時代より自由な時間にゆったりと診察できるようになった。「この人はこんな表情も見せるんだ、と気づかされることもある」と語る

 子どものてんかんの大半は成長とともに発作がなくなり、普通に暮らせるようになる。だが大塚が40年間診てきたのは、なかなか発作が止まらず、発達の遅れや障害を伴う子どもたちが中心だ。

 「私は自分が子どもだったらこう思う、こう感じるというのがなんとなく分かるんですよ」。伝えたいことがあるのにうまく伝えられない、理解してもらえない子どもたちにずっと寄り添ってきた。

 全国の大学病院の中でも小児神経科が研究・診療科として独立しているのは岡山大と鳥取大だけ。大塚が岡山大に入局した当時はまだ小児科内の一つのグループだったが、1978年に脳代謝研究施設の中に基礎部門が設置され、87年に小児神経科が発足した。

 てんかんは脳の神経細胞で異常な電気信号が発生し、神経が過剰に興奮して発作が繰り返す病気だ。条件がそろえば、新生児から高齢者までだれでも発病する可能性がある。

 だが、子どもの難治てんかんの多くは特定の年齢でしか発病しない。岡山大小児神経科初代の大田原俊輔教授が報告した早期乳児てんかん性脳症(大田原症候群)は新生児、ウエスト症候群(点頭てんかん)は1歳未満の乳児、レノックス・ガストー症候群は幼児期に集中する。

 異常な電気活動の発端となる部位(焦点)はどこか、脳神経ネットワークをどう中継して広がるのか―。病気の子どもの脳もそれなりに発達していく。大田原、岡〓次(えいじ)両教授の跡を継ぎ、発達との関連解明に打ち込んだ。

 新しい抗てんかん薬の中には海外で効能が報告されながらも、国内で治験が進まない“ドラッグ・ラグ”に阻まれて使えないものがいくつもあった。朝から晩まで数百回も強い発作が頻発する子どもたちを診る大塚は「一日も早く薬を届けたい」との一心だった。

 厚労省の未承認薬・適応外薬問題検討会議の一員として行政に働きかけ、日本小児神経学会の薬事委員会委員長として新薬の開発に努力してきた。岡山大教授を今年3月に退いたが、尽力した新薬がようやく相次いで承認されようとしている。

 現在は旭川荘で週2日の外来を受け持つが、10年、20年のつき合いになる親子も少なくない。どんな発作がいつ、何をしているときに起きたかを「発作表」に書き留めてもらっているが、病状と生活状況を記したカルテと重ね合わせると一冊の本になるほどの“歴史”が積み上がる。

 患者・家族でつくる日本てんかん協会岡山県支部の代表も務め、昨年は岡山市で全国大会を開いた。「患者さんと一緒にどんな時にどんな発作が起こりやすいかよく調べ、ちゃんと対策を立てれば、ほとんどの社会活動は一緒にできる。訳の分からない難病ではない」と訴え続ける。

 教授退任時には感謝を伝える親子が引きも切らなかった。「何も持ってないけど、あげたいものがある」と、突然立ち上がって手品を見せてくれた子どもも。大塚にとって、どんな賞や名誉にも勝る贈り物だ。(敬称略)

(〓は金へんに英)

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 おおつか・ようこ 福山誠之館高、岡山大医学部卒。モントリオール神経研究所研究員を経て2004年から今年3月まで岡山大教授(発達神経病態学分野)。小児神経専門医、てんかん専門医。日本てんかん協会岡山県支部代表も務めている。

 承認を待つ難治てんかんの新薬 乳児重症ミオクロニーてんかんに対するスチリペントールは製造販売承認申請中。レノックス・ガストー症候群に対するルフィナミドも近く承認申請を予定している。ウエスト症候群に対しては英国で最初に承認された特効薬のビガバトリンがあり、国内では副作用の問題でいったん治験が中止されていたが、厚労省検討会議から要請を受け、今年中に治験再開が見込まれている。

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 外来 大塚顧問の診察は毎週火曜日午後と金曜日午前。旭川児童院外来(086―275―4057)で予約が必要。


旭川荘療育・医療センター(旭川児童院)

岡山市北区祇園866

電話 086―275―1951
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年08月20日 更新)

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