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(5)悩みを抱えたこどもたち 倉敷中央病院小児科医長 石原明子

いしはら・あきこ 兵庫県立神戸高、島根医科大卒。神戸大医学部付属病院などを経て2002年5月から倉敷中央病院イオン倉敷クリニック、08年9月から現職。日本小児科学会専門医、日本小児科医会子どもの心相談医、日本小児精神神経学会認定医。

イラスト・広地わかなさん(倉敷中央病院)

“こどもの森”とこどもたち

“こどもの森”の道は決して平坦へいたんではなく山あり谷あり、大波小波も打ち寄せます。こどもたちは家族や友人やいろいろな人に助けられ見守られながら勇気を出して悩みや困難に立ち向かい、やがて森を出て大人の社会へ船出します。今日は、そんなこどもたちのひとり、あゆみちゃんのお話です。

おなかが痛い
あゆみちゃんの場合

 あれれ? 朝からなんだか元気がなくて浮かない顔をしているあゆみちゃんがいますね。お熱があるのかな? どこか痛いのかな? お母さんが心配して「どうしたの?」とあゆみちゃんの顔をのぞきこみながら聞くと「おなかが痛い」と言うので、学校はお休みして森の病院に行くことにしました。

 森の病院に行くと、看護師さんがお熱を測って、「今日はどうされましたか?」と簡単な質問をしました。それから診察室に入りました。少しドキドキしますね。「どんな先生だろう? 何されるんだろう?」。でも大丈夫。今日はアンパンマンみたいな優しそうな男の先生が担当でした。「ちょっちょっちょ」と優しくお話を聞いてくれ、聴診器でもしもしして、お口をあ~んして、ベッドでおなかも触ってくれました。おなかの風邪の始まりかもしれないので少し様子を見ることになりました。

 数日後、お熱もなく食欲もあってうんちも出ているのにおなかの痛みはよくなりません。特に朝、学校に行く前に痛みは強くなるのです。「おかしいな」と思ったお母さんはもう一度森の病院に行きました。検査をしても異常はありませんでした。小児科の先生は「何か心配事や困っていることがあるのかもしれませんね。そういうときにもおなかや頭が痛くなることがありますよ。ゆっくりお話を聞いてみましょう」と言いました。

 お母さんは「心配事? 困っていること?」と考えてみましたが、思い当たりませんでした。子どもたちは恥ずかしかったり心配をかけたくなかったりいろいろな気持ちからお母さんやお父さんに言えないことがあります。また本人がこころの中のもやもやしたものを上手に言葉で表現できない場合もあります。だんだんとこころの中に何かもやもやした気持ちがたまっていきます。人はみなそれぞれ、そんなもやもやした気持ちをためておく入れ物をこころの中に持っています。入れ物が大きい人、小さい人、さまざまです。たまったもやもやを上手に抜く蛇口をいくつも持っている人もいます。あゆみちゃんはその入れ物がいっぱいになってあふれてしまっていました。

 言葉で上手に表現できない子どもたちは、「身体化」といって、無意識のうちにさまざまな身体症状でこころのつらさを表現することがあります。これが「心身症」です。心と身体は密接につながっているのです。これを「心身相関」といいます。食べられなくてやせてしまうなど、症状が重い場合はお薬を飲んだり、入院して治療することもありますよ。

 さて、あゆみちゃんといろいろなお話をする中で、あゆみちゃんは最近、学校の仲良しグループの友達となんとなくうまくいかず仲間はずれにされていると感じていることがわかりました。森の学校の先生と相談して友達を交えて話し合ったところ、お互いのちょっとした誤解だったことがわかり、翌日からはまた元気に学校に通えるようになりました。

 心身ともに健康であるということは、体の調子が良く、こころもふわっといい気持ちで、ご飯がおいしく食べられ、いいうんちが気持ちよく出て、ぐっすり眠れ、わっはっはと笑えて、明日は何して遊ぼうか楽しみだということです。森の病院で毎回尋ねられることですね。

最後に

 小児心身症外来を受診するお子さんが増えています。心身の健康を取り戻してもらうためにはどうすればよいかと専門知識と知恵をしぼって日々診療しています。笑顔が戻るととてもうれしくなります。やがてこどもの森を離れるときには、少しでも頑丈な船で船出してほしい、そして大人の海を航海しながらますます成長してほしい、と願っています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年08月20日 更新)

タグ: 子供倉敷中央病院

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