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(10)高血圧編 川崎医大総合内科学3教授・川崎医大川崎病院内科部長 堀尾武史

ほりお・たけし 大阪市立大医学部卒。大阪市立大循環器病態内科、国立循環器病研究センター高血圧・腎臓科医長などを経て2011年から現職。医学博士。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本高血圧学会高血圧専門医・指導医・評議員、日本循環器学会循環器専門医、日本心血管内分泌代謝学会評議員。

図1

図2

血圧とは

 心臓からは1分間に約5リットルもの血液が押し出されています。この心臓から送り出された血液が血管(動脈)の壁に与える圧力が血圧で、「上が120、下が70」というように二つの数値で表されます。心臓が収縮して血液を押し出した時に血管にかかる圧力は最も高くなり、これが「最高血圧(収縮期血圧)」です。逆に心臓が拡張すると血液の流れが緩やかになって血圧は低くなり、これを「最低血圧(拡張期血圧)」といいます。

 血圧の数値の単位は「mmHg」ですが、これは水銀を何ミリメートル押し上げられるかを示しています。たとえば、120mmHgは水銀を120ミリ(12センチ)押し上げる圧力で、これは水圧に置き換えると実に1・6メートルも押し上げる換算になります。ですので、150mmHg程度の軽症高血圧の方でも2メートル以上水(血液)を押し上げる強い圧力が常々血管にかかっていることになるわけです。

高血圧の原因

 高血圧には種類があり、本態性高血圧と二次性高血圧の二つに分けられます。ただし、前者が90%以上を占めますので、普通に高血圧というと本態性高血圧のことを指します。「本態性」とは原因がはっきりわからないという意味ですが、生まれつきの遺伝的な体質に種々の環境因子(生活習慣)が加わって発症すると考えられています。

 環境因子としてはストレス、喫煙、アルコール、食塩、肥満、運動不足などさまざまなものがありますが、なかでも塩分のとり過ぎは高血圧の発症に大きく影響します。体は血液中に増えたナトリウムを薄めようとして水分(体液量)も増え、また余分なナトリウムを尿中に排せつしようとして腎臓に圧力をかけるため血圧も上がります。

高血圧は“静かな殺し屋”

 先ほど述べたような高い圧力が血管にかかり続けると、血管が膨らんで破裂したり、血管の壁に傷がついて、その傷がもとで血管が詰まってしまったりすることが起こります。これらが脳や心臓の血管に起こると脳出血、脳梗塞、心筋梗塞といった重篤な病気になるわけです=図1参照。また高い血圧は心臓や腎臓に負担をかけ、心不全や腎不全を引き起こします。さらに問題なのは、かなり血圧が高くても高血圧自体ではほとんど自覚症状がないことです。知らないうちに高い血圧によって重大な障害が引き起こされるため、高血圧は“サイレントキラー(静かな殺し屋)”と呼ばれています。

家庭で血圧を測ろう

 高血圧の基準は診察室(外来)の血圧で最高血圧140mmHg以上または最低血圧90mmHg以上と定義されていますが、診察室や健診での血圧と普段の血圧にはしばしば違いがあります。医療機関でのみ血圧が高くなる「白衣高血圧」はよく知られた現象ですが、これとは反対に家庭での血圧がむしろ高くなる「仮面高血圧」が心臓や血管の障害に大きく関係することが最近わかってきました=図2参照。ですので、高血圧の患者さんはもとより、これまで自身の血圧にあまり関心がなかった方も、“静かな殺し屋”に忍び寄られないよう家庭で血圧を測っていただくなどして、日頃からご自分の血圧に関心をもちましょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年09月03日 更新)

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