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(1)重症心不全 人工心臓は「命の綱」 成績向上、装着目指す

成績が向上した補助人工心臓の有望性を話す坂口副院長

国産の植え込み型補助人工心臓で保険適用の「エヴァハート」。(サンメディカル技術研究所提供)

 進歩し続ける心臓病治療。最新の動きを、心臓病センター榊原病院(18日に岡山市北区中井町で移転開院)からリポートする。


 拡張型心筋症や虚血性心筋症などによる重症心不全患者にとって、現在唯一の根治療法は心臓移植とされる。移植を待つ間の「命の綱」となるのが補助人工心臓。衰えた心臓の血液送出機能を支え、近年、技術革新で2〜3年もの待機期間に耐えうる確率が高まった。装着できる病院は国内で限られる。その先端医療に、榊原病院が挑む。

 「瀬戸内は補助人工心臓治療の空白地帯。装着で恩恵を受ける患者は多いはずで、心臓の負担が軽くなり症状が大きく改善された例もある。ぜひ手がけたい」

 こう強調する坂口太一副院長は今春まで、心臓病の治療・研究では世界レベルの大阪大病院に在籍。現在主流の「植え込み型」の装着手術では国内第一人者で、心臓移植も最多クラスの実績を持つ。

在宅療養が可能 

 植え込み型は、旧世代の体外式と比べてコンパクトなのが特徴で、病院外での在宅療養を可能にした。血液ポンプは体内に収まるほど小型化し、ミニ冷蔵庫ほどの大きさだった制御駆動装置は外付けながらも、携帯できるサイズになった。

 耐久性も向上。さらに体外式以来の克服課題で、合併症としての脳梗塞の原因となる血栓(血の塊)の発生リスクが大幅に減った機種も登場した。

 大阪大病院の場合、2007年以後、約40人に植え込み型を装着し、現時点での生存率は「ほぼ100%」(坂口副院長)という。一般的に体外式の時代では、心臓移植を待つ約半数の患者は実現に至らなかったと言われており、差は大きい。

待機中9割に必要 

 榊原病院が植え込み型導入を目指す背景には、5年生存率96・2%と世界的に高率で、岡山大や大阪大など九つの大学病院しか行えない国内の心臓移植を取り巻く状況がある。

 提供要件を緩めた臓器移植法改正(10年施行)で心臓移植の件数も一定程度は増えたが、坂口副院長によると「見込みほどではない」のが実情で、2〜3年の待機期間も改正前と大差ない。さらに高齢化を踏まえて、厚生労働省作業班は8月、心臓移植を受ける対象年齢を5歳引き上げて「65歳未満が望ましい」との案をまとめている。

 心臓移植を待つ患者は今後も増えそうな雰囲気で、現状でも待機中の約9割で補助人工心臓が必要という。それだけに主流の植え込み型への期待は大きいが、心臓病関連の学会でつくる協議会は、植え込み型を装着してよい病院を大阪大や九州大など全国の約20に限定している。中四国地方では鳥取大だけだ。

アドバンテージ 

 植え込み型を患者に装着するためには、病院側がノウハウを熟知するだけでなく、在宅療養をサポートする家族や地域の態勢づくりも重要になる。さらに協議会が定める(1)体外式で3例実施(2)うち1例で3カ月以上の入院管理―などの諸条件を満たす必要がある。

 「来年中にはクリアし、協議会の認定を得たい」と話す坂口副院長。「協議会の認定実施医が病院にいること」も諸条件の一つだが、自身は大阪大病院時代に取得しており、榊原病院にとっては大きなアドバンテージだ。

 榊原病院の重症心不全治療で核と位置付けられる補助人工心臓。坂口副院長は、その将来についてこう語る。

 「機械の耐久性や使用による合併症の恐れを考えると、若い患者には心臓移植が治療の王道。しかし一定の年数に限って良い成績を残せば、高齢の患者への永久的な装着が視野に入る。米国では実際、そう使われている」

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重症心不全 心臓は、ポンプのように拡張と収縮を繰り返すことで血液を体内に送り出している。重症心不全は、このポンプ機能が著しく低下した状態を指す。風船のように心臓が膨らむ拡張型心筋症や、心筋梗塞で心筋が一部壊死(えし)した虚血性心筋症などが原因。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年09月17日 更新)

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