文字 

(48) 乳がん おおもと病院 村上 茂樹副院長(52) 切除組織を丹念に観察 最後まで患者診る

村上副院長は手術で切除した組織片を丹念に顕微鏡観察する。術後の治療に責任を持つために欠かせない、地道な作業だ

 「何が専門かって聞かれると…」

 乳がん手術だけではなく、内視鏡を使って消化器のがんをはぎ取るESD(内視鏡的粘膜下層剥離(はくり)術)や、カテーテル(細い管)で血管にステント(網状の筒)を挿入したりするIVR(インターベンショナル・ラジオロジー)までこなす。自他共に認めるオールラウンダーだ。

 だが、乳がんの手術執刀はおおもと病院での17年間で800件を超え、外来で毎月診ている350人前後の患者も8割方は乳がん。再発、転移のリスクがつきまとう乳がん患者とは自然、長いつき合いになる。

 大阪医大一般・消化器外科に入局。岡島邦雄教授(当時)から「特上の外科医になれ」と活を入れられ、先輩からみっちりスパルタ教育を受けた。おおもと病院は研修の一環で勤めたが、待ち受けていたのは岡島教授と同門の山本泰久理事長・名誉院長。手術室に入るとメスの持ち方から厳しくしごかれた。

 昼夜を分かたず乳がん患者のために働く山本の背を見て、村上も次第に自分なりの工夫で手術に臨むようになった。皮膚切開、乳房温存手術、リンパ節郭清(切除)―。一歩ずつ新しい術式に挑戦していった。

 最も気を使うのが切除した組織断端にがんが残っているかどうか。末梢(まっしょう)の乳管は細くて肉眼では見えず、術後に顕微鏡観察するしかない。取り切れていれば一安心だが、もし断端にがん細胞が顔を出していれば、術後の治療は慎重を期さねばならない。

 病理医から検査所見が届くと、村上は必ずもう一度顕微鏡をのぞいて自分の目で確かめる。もちろん報告を信頼しているが、「術後の方針は私が説明する。自分が納得していないと、患者さんに話ができませんから」と言う。「最後まで患者を診る」という責任を貫くがためだ。

 同じ大きさ、進行度でも乳がんの素性、顔つきはみな違う。女性ホルモンの刺激を受けて増殖する性質があればホルモン剤を、HER2(ハーツー)という遺伝子タンパクがたくさんあれば分子標的薬(ハーセプチン)を使って増殖を抑えることが可能になってきた。

 さらにさまざまな抗がん剤を追加して治療するのだが、副作用のつらさや経済的負担も考慮しなければならない。近年、がん細胞の増殖能力の指標となる抗体が測定できるようになった。基準値を超えるかどうかが抗がん剤使用の目安になる。

 免疫染色した細胞1000個の顕微鏡写真を観察するのだが、ほかにも多数の検査を抱える病理医に押しつけるわけにはいかない。村上は外来や手術を終えた後、夜なべして黙々と染まった細胞を数える。

 「医師の経験はもちろん大切ですが、こういうデータがありますという根拠を説明して最終的に患者さんに決めてもらう。日進月歩のデータをちゃんと勉強しておかないとついていけません」

 白衣の内に100キロのウルトラマラソンを完走するバイタリティーを秘めている。(敬称略)

-------------------------------------

 むらかみ・しげき 岡山操山高、鳥取大医学部卒。大阪医大一般・消化器外科に入局し、高槻赤十字病院を経ておおもと病院に勤務。2010年2月から副院長。そうじゃ吉備路マラソンのフルマラソンコースのほか、四万十川や隠岐島のウルトラマラソンにも出場し、100キロを完走している。

 乳がんのタイプ分類 乳がんを誘発し、増殖に関係する因子として、エストロゲン、プロゲステロンの二つのホルモン受容体とHER2遺伝子があり、再発のリスクや薬物療法の必要性診断に役立てられている。最近ではホルモン受容体があるがんを増殖活性が低いルミナールAと、比較的高い同Bに分けて考える分類が一般的になっている。

 外来 村上副院長の外来は毎週月、木、金、土曜日の午前(9時〜正午)と木曜日午後(4時〜5時半)。


おおもと病院
岡山市北区大元1丁目1の5
電話 086―241―6888
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年10月01日 更新)

タグ: がんおおもと病院

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ