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即興演奏や歌創作で心前向き 倉敷 イムズミュージック活動5年

田中教授(右)の合図で、思い思いに発声する参加者。耳をふさぐことで自分の声に集中できるという=1月21日、倉敷市

 即興での演奏や歌の創作を通じ、コミュニケーションが苦手な人や精神的に疲れている人らが交流するワークショップ「イムズミュージック」が月1回、倉敷市で開かれている。音楽療法に取り組む田中順子・川崎医療福祉大教授(64)が主宰し、障害の有無にかかわらず誰でも参加できる場を提供。活動は5年を超え、生きづらさを抱える人の心に自己肯定感や前向きに生きる力を育んでいる。

 堂々とした太い声や甲高い声。主婦、会社員、高齢者ら5人が思い思いに発する声が混じり合い、不思議なハーモニーが響き渡った。1月21日、日本基督教団倉敷教会(同市鶴形)で開かれたワークショップ。「どっしりした声がすてき」「きれいな声は誰?」。和気あいあいとした雰囲気が会場を包む。

 参加者は、ピアノで即興のメロディーを奏でたり、思いつくまま黒板に歌詞を書き連ね歌を作ったり。生まれる曲はどれもユニークだ。田中教授は「音楽には自分の殻を破る力が秘められている」と話す。

 田中教授は大学で音楽を学び、作業療法士の資格を取って病院でコンサートを開くなど音楽療法を実践してきた。1997年に川崎医療福祉大助手になったが、膠原(こうげん)病を発症。ピアノを弾けなくなったのを機に、自由に表現する即興音楽に注目した。神戸大大学院で学び直した後、川崎医福大で学生や精神科の患者を集め、即興で歌を作るワークショップを始めた。

 3年ほど大学で続けたが、「患者と治療者という枠組みを取り去り、地域の人々と一緒に楽しめないか」と、2017年にイムズミュージックを立ち上げ。恩師の若尾裕・神戸大名誉特任教授(74)=臨床音楽学=と、音楽家の岩本象一さん(41)=岡山市=がファシリテーター(進行役)として協力する。

 大切にするのは「自由でいい」。音楽経験の有無は問わず、心のままに音で遊ぶ。オリジナル曲で盆踊りを踊ったり、自作の詩を朗読したりすることも。真面目すぎる性格がコンプレックスだった女性は肩の力が抜け、攻撃的な発言が目立った男性が柔和になるなど、前向きな変化が起こっているという。

 発足時から通う自閉症の男性(61)=倉敷市=は「『こうじゃなきゃいけない』という気持ちが解け、心が軽くなる。ありのままを肯定してもらい、積極的に生きる勇気をもらえる」と話す。

 課題は参加者が毎回10人足らずと、周知が十分でないこと。活動を紹介するドキュメンタリー映画の製作を進めるなど模索している。田中教授は「街の中には生きづらさを抱えている人が大勢いる。そうした人が安心して憩える“第二の家”のような場所をつくりたい」と話している。

 ワークショップは毎月第3土曜日、同教会で開いている。参加無料。問い合わせは田中教授(imusmusic2018@gmail.com)。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年02月04日 更新)

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