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(3)大動脈瘤 破裂前に人工血管留置 負担軽い内挿術

ステントグラフトを手に、内挿術の治療実績を語る吉鷹上席副院長

 心臓から血液を運ぶ大動脈がこぶ状に膨らみ、破裂すれば命に関わる大動脈瘤(りゅう)。心臓病センター榊原病院(岡山市北区中井町)は、カテーテル(細い管)を使って患部に人工血管を留置する「ステントグラフト内挿術」に力を入れている。従来の外科手術より体の負担が軽く、早期に退院、社会復帰できる。

 大動脈瘤は、動脈硬化などで血管がもろくなっている部分にできる。発生部位が横隔膜より上が胸部大動脈瘤、下が腹部大動脈瘤。多くは無症状で、健康診断で見つかる例が多い。大動脈の直径は通常2〜3センチ前後だが、胸部は瘤の大きさが6センチ、腹部は4〜5センチ以上になると破裂の危険があるとされる。

 「瘤がいったんできると、自然に縮小はせず、有効な薬もない。救命には破裂前に治療することが重要」と吉鷹秀範上席副院長(心臓血管外科)は語る。

脚の付け根切開 

 かつては体を切開し、患部の血管の代わりに人工血管を縫い付ける「人工血管置換術」が標準だった。しかし近年は、ステントグラフト内挿術が増えている。ステントグラフトは、ばね状の金属を付けた人工血管だ。

 同病院では、内挿術は脚の付け根を2〜3センチ切開して動脈からカテーテルを挿入、瘤まで進める。カテーテルに圧縮・収納していたステントグラフトを瘤の前後で広げ、ばねの拡張力と血圧によって固定。血液の瘤への流入を防ぎ、破裂の恐れをなくす。

 吉鷹上席副院長によると、人工血管置換術は胸部だと20センチ前後、腹部では10センチほど切開する。手術はそれぞれ4〜6時間、2時間程度、入院は2〜3週間、2週間ほど要する。

 一方、内挿術は胸部が1〜2時間、腹部が1時間半前後。翌日から食べて歩け、術後3日で退院可能。「高齢者や合併症などで置換術が難しい人も適応対象だが、瘤の形や場所によっては行えない」という。

 画像診断で瘤の場所を確認、ステントグラフトのサイズ選択、カテーテル操作など、求められる技術は高い。実施施設・医師の基準が設けられ、行える病院は限られている。

独自の方法考案 

 同病院では1998年に始め、保険適用(腹部が2007年、胸部が08年)以降だけでも計約400例に上る。西日本でも指折りの実績を持つ吉鷹上席副院長は「最近では胸部の4分の1、腹部の半数が内挿術」と話す。

 ただ腹部では術後、瘤が改善しない例が5%前後見られる。大動脈以外の周辺動脈から、瘤へ血液が流れ込んでいるためだ。対策として、同病院は独自の術式を考案した。例えば、ステントグラフトの留置前に、カテーテルで周辺血管にコイルを詰め、瘤への血流を防ぐ方法を10年から導入している。

 9月の移転開院に伴い、最新鋭の血管エックス線撮影装置を備えた「ハイブリッド手術室」2室が稼働。「術中の高画質な立体画像を見ながら、内挿術などをより迅速、安全に実施できる」と吉鷹上席副院長は力説する。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年11月05日 更新)

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