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(10)森の中の学校(院内学級) 倉敷中央病院小児科部長 藤原充弘

ふじわら・みつひろ 広島大付属高、広島大卒。広島大医学部付属病院、広島赤十字・原爆病院、庄原赤十字病院などを経て、1998年7月から倉敷中央病院小児科、2007年5月から現職。日本小児科学会専門医。

 みなさん、これまで「こどもの森」の中をいっぱい探検してきましたね。そして、森のこどもたちは、少しくらい病気になってもへっちゃらで、元気に暮らしていることが分かりました。さあ、今日はもう少し奥に進んでみましょう。あれ〜?、向こうからこどもたちのとてもにぎやかな声が聞こえてきます。どこだと思いますか? そう、ここは森の中の小学校です。今日はこどもの森の病院にある院内学級(小学校・中学校)のお話です。

ノンちゃんの入学式

 3月に森の病院に入院したばかりの6歳のノンちゃんは、とっても気がかりなことがあります。それは、森の小児科医に「ノンちゃんの病気は、『はっけつびょう』といって治るのにちょっと時間がかかるんだ。だから夏休みくらいまで入院して治療をがんばろう」って言われたことでした。ノンちゃんはとてもがんばり屋さんだから、「治療なんてぜんぜん平気、がんばるよ」と答えましたが、4月になったら小学1年生になるのをものすごく楽しみにしていたので、「あたしだけ、1年生になれないのかな?」と心配していたのです。

 そして、いよいよ入学式の日がやってきました。ノンちゃんは朝から治療の点滴があったから、ベッドの上でごろごろしていました。すると、お母さんがまっさらな制服とランドセルを用意して、「さあ、学校にいくよ! ノンちゃん」と言いました。ノンちゃんはびっくりして飛び起きました。おそるおそる制服に着がえて、ランドセルを背中にしょって病室をでました。もちろん点滴さんも一緒です。少し歩くと森の病院の中にある小学校にやってきました。そっと中に入ると、ノンちゃんの通うはずだった小学校の校長先生と担任の先生、院内小学校の校長先生と担任の先生、それに森の小児科医、看護師さんまで、たくさん並んで待ってくれていました。黒板には「入学おめでとう」って書いてあります。

 ノンちゃんは、院内小学校が大好きになりました。そのあとは治療でしんどい日もあったけれど、ほとんど休まずに登校しました。そして退院するとき、ノンちゃんはこう言いました。「退院したくないなあ、院内学級に行けなくなるから」って。これには、森の小児科医も院内小学校の先生も、ちょっと苦笑い。何回もこっちをふり返りながらお家(うち)に帰っていくノンちゃんに、困ったような、うれしいような、不思議な気持ちで手をふり続けました。

院内学級ってどんなところ?

 森の病院には、ちっちゃな赤ちゃんから大きな中学生のお兄ちゃん、お姉ちゃんまで、たくさんのこどもたちが入院しています。感染症など、すぐに元気になって退院できる病気(急性疾患)のこどもたちもいますが、いっぽうでノンちゃんのように、血液の病気、腎臓の病気、心臓の病気などどうしてもお家に帰るのに時間がかかる病気(慢性疾患)のこどもたちもたくさんいます。そんな小学生や中学生のこどもたちが毎日治療をしながら通っているのが、院内学級です。

 ここで少し、院内学級の時間割を紹介しますね。朝はちょっとのんびりで、9時20分から始まります。なぜかと言うと、しっかり寝て、朝ごはんはちゃんと食べてきてほしいからです。午前中は3時間目までで、お昼ごはんのあと4時間目があって、お昼の2時30分に下校です。ふつうの学校より時間が短いですね。でも、安心してください。少人数なので、どんどんお勉強できます。ちょっぴりがんばれば、退院するときには、もとの学校のお友達を追いこしているかもしれませんよ。

 あっ、それとこれは退院してからお友達には内緒にしていてほしいんですが、院内学級にはみんなが楽しみにしている授業があります。それは、月水金の4時間目にある「元気」っていう授業です。この時間は、1年生から6年生までみんなで、テレビゲームやトランプをして遊べるんですよ。ちょっとうらやましいでしょう。そのほかにも、調理実習や青空遠足などもあって、こどもたちは毎日学校にいくのが楽しみでしかたありません。

 長期入院はこどもたちにとっても、お家のかたにとっても、大変なことですし、つらいことでしょう。でも、そんな気持ちをふっとばすくらい森のこどもたちは元気いっぱいです。今日も森の中の学校からは、こどもたちの笑い声がたからかにひびいています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年11月05日 更新)

タグ: 倉敷中央病院

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