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岡山大病院肝移植300例 八木教授に聞く

八木孝仁教授

1歳女児に行われた生体肝臓移植。300例目という節目の移植になった(岡山大病院提供)

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町)で6日、脳死(14例)と合わせて300例目となる生体肝臓移植が胆道閉鎖症の1歳女児に行われ、無事成功した。1996年8月の病院初の生体移植から16年。中四国地方最多の症例数を誇り、術後5年間の生存率も85%と全国平均(約77%)を上回る。96年当時から執刀医を務める八木孝仁肝胆膵(かんたんすい)外科教授(55)に、その意義と今後について聞いた。

 ―脳死臓器提供を認めた臓器移植法の施行(97年)前から取り組み、京都大(約1600例)や東京大(約500例)などに次ぎ、国内トップクラスの移植施設となった。

 「一つの区切りを無事に迎えられ、安堵(あんど)している。肝臓移植は98年に保険適用されたが、肝硬変、劇症肝炎は15歳以下に限定されていた。この制限が2004年に撤廃され、対象疾患も増えるなど環境が整ってきた。それ以前は600万円から1千万円余りの治療費を自己負担しなければならず、断念して亡くなった患者さんも多い。体制整備が早ければ、もっと多くの患者さんを救えたのではとの思いもある」

 ―岡山大病院肝臓移植チームの技術は上がっている。平均手術時間は10時間を切り、以前より2時間ほど短くなった。

 「血管をつなぎ合わせる際に使っていた大型顕微鏡を用いない手術法に変更し、機械のセッティングなど時間のロスを削った。肝胆膵外科を中心として、麻酔科蘇生科、消化器内科の医師らでチームを編成しているが、症例を重ねるごとに連携や個々の動きが洗練されてきた。他人の臓器を移植したときに起こる拒絶反応を防ぐ免疫抑制といった術後管理も万全だ」

 ―今年9月には国内初となる脳死肝腎同時移植を成功させた。

 「私の経験の中で最も難しい症例の一つだった。女性患者(50代、青森県)は他の移植施設が同時移植を断る中、岡山大に救いを求めてこられた。本人や家族の強い思いに触れ、『自分たちがやらなければ、国内で同時移植の扉は開かない』と決意。急な心停止などに備え、補助心臓や人工透析装置といった考えられる最大限の準備を整えて手術した。順調な回復で、9日に地元の病院へ転院する」

 ―岡山大病院における今後の移植医療について聞かせてほしい。

 「肝腎同時移植や乳幼児患者への生体肝移植など難しい移植に挑み、成功させてきた。今後も高いチーム力を維持し、難しい症例を成功させたい。来春には新設の総合診療棟に手術室が移り、現在よりも広くなる。手術もスムーズに進むだろう」

 ―課題はどうか。

 「岡山大は100例が間近な肺移植を含め、中四国地方の『移植センター』になった。一方で脳死ドナー(臓器提供者)は1人も出していない。われわれが先頭に立ち、潜在的なドナーに提供してもらう『ドナーアクション』に取り組み、移植医療を進展させたい」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年11月07日 更新)

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