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「こころの病気授業」5年目 京山中、福祉事業所と連携

 岡山市立京山中学校(同市北区津島京町)が学区内にある精神障害者の福祉事業所と連携し、「こころの病気を学ぶ授業」を始めて5年目を迎えた。障害者と直接交流しながら偏見の強い病気について正しく理解し、関わり方も学ぶ全国でも珍しい取り組みだ。身近な差別の問題を深く考える機会にもなっており、京山中は12月1、2日、岡山市などで開かれる「全国人権・同和教育研究大会」で発表する。

 「寝ていてふと気付いたら、壁際に人が座って私をじっと見ているの。その時は自分が病気だと思っていなかったから、怖くて」

 11月初め、精神科病院・万成病院(同谷万成)の多目的ホール。近くのグループホームで暮らす女性(68)が話す幻覚体験を車座になった京山中の生徒が真剣な表情で聞き入っていた。

 女性は飲食店を営んでいた二十数年前に過労やストレスから統合失調症を発症。一時入退院を繰り返したが、今は病気を理解してくれる多くの仲間に支えられ、安定した生活を送っているという。

 この日は2年生約280人が参加。河上清香(さやか)さん(14)は「病気からの回復は薬だけでなく、人の支えが大切だと思った」と感想を話した。

 こころの病気を学ぶ授業は、就労支援などを行う万成病院の多機能型事業所「ひまわり」(同所)の田淵泰子施設長が2008年に京山中に提案。田淵施設長は入院患者が社会復帰する上で“壁”となる病気への偏見を取り除くには子どもの時からの啓発が重要と考えていた。

 京山中は2年生を対象に年5時間の授業を企画。教師らは教材もない中で一から勉強し、精神障害者が病院に隔離収容されてきた歴史も含めて幅広く学べるカリキュラムを用意した。

 生徒に強い印象を残したのが障害当事者との交流。ごく普通の人が体験を淡々と語る姿に「誰でもなりうる病気だと自然に理解できたようだ」と徳山順子校長。昨年度から少人数グループに分かれて当事者と話す形にして、より距離が縮まったともいう。

 感想文には「直接ふれあわなかったら、病名だけで誤解や偏見を持っていただろう。知らないでいることの怖さを教えてくれた」「病気だから何もできないと決めつけるのは間違いだと思った」など、深く考えた記述が見られた。毎年春休みにひまわりへボランティアに行く生徒もいる。

 100人に1人の割合で発症するとされる統合失調症をはじめ精神疾患は身近な病気。だが、専門的な知識や配慮が求められることもあり、授業で扱う学校はあまりない。

 岡山市は昨年度、「こころの健康早期支援事業」を始め、京山中を最初のモデル校とした。本年度は新たに後楽館中と瀬戸中も指定。今後、取り組みを広げたい考えで、京山中も授業を公開したり、助言するなど積極的に協力していく方針だ。

 田淵施設長は「病院と地域住民の間には目に見えない壁があったが、今はスーパーで障害者が生徒に声をかけられるなど自然な交流が生まれてきている。メンタルヘルスへの理解が深まるよう、他の地域でも取り組んでもらいたい」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年11月26日 更新)

タグ: 精神疾患万成病院

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