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コロナ共生 岡山県内も一歩ずつ 素顔で接客復活も業種により慎重

マスクを外して接客するホテルグランヴィア岡山の従業員(左)

院内感染防止の啓発ポスターを掲げる看護師=8日、岡山済生会外来センター病院

 新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが「5類」に引き下げられた8日、岡山県内のホテルや小売店などでは、マスク着用に関する社内ルールの緩和や飛沫(ひまつ)防止用パネルの撤去といった動きが広がった。一方、飲食店などでは従来の感染対策を継続するケースも目立つ。コロナ禍前への“回帰”はゆっくりとした歩みになっている。

企業、職場で分かれる対応

 ホテルグランヴィア岡山(岡山市北区駅元町)では8日から従業員のマスク着用を任意とした。1階のロビーカウンターでは、マスクを外して笑顔で接客するスタッフの姿が見られた。

 入社3年目の女性(24)は「入社時からずっとコロナ禍で、素顔でお客さまを迎えられたのは初めて。互いの距離が縮まり、親しみを持ってもらえそう」と話した。

 岡山高島屋(同本町)は飛沫防止用パネルのほか、出入り口に設置していた非接触型体温センサーも撤去。来店客に感染対策を呼びかける店内放送を取りやめた。

 天満屋(同表町)は岡山、広島、鳥取県内の全5店舗で、会計待ちの際、間隔を空けて並ぶよう促す足形マークのシールの大半をはがすなどして営業した。

 ただ「来店客の多くがマスクを着けており、店員が外すのは適切ではない」(天満屋広報担当者)との判断から、同社と岡山高島屋はいずれも接客スタッフはマスクを着用し、事務職らは任意と対応を分けた。

 「密になりやすい」とされた施設にも変化があった。エヌ・シー・ピー(同下伊福本町)は運営するフィットネスクラブで、インストラクターのマスクを任意とし、施設内での利用者の軽食も解禁。結婚式場を営むマグリット(同丸の内)は1テーブルに最大6人としていた人数制限をコロナ禍前の8人に戻した。

 コロナとの共生に向けた動きが進む一方で、感染対策の緩和に慎重な企業も少なくない。岡山、倉敷市内で洋食店など6店を展開するいんでいら(岡山市中区海吉)は、従業員のマスクや消毒液の設置などを継続する。出井山登社長は「マスクを外すことをお客さんがどう思うだろうか。5類になっても感染が不安な人は多いはず」と説明する。

 岡山、広島県内で回転ずしチェーン「すし遊館」など10店を展開するやまと(倉敷市福島)も従業員のマスク着用は続ける。「笑顔の接客をしたいが、マスク着用の来店客も目立つ。なかなか踏み出せない」と高橋栄二社長。菓子製造販売の白十字(岡山市南区藤田)も店舗スタッフのマスクやレジ周りのパネルなどの対策を続けている。

 自動車部品メーカーの丸五ゴム工業(倉敷市上富井)はマスク着用は個人判断としつつも、社内での会話時などでは着用を求める。食堂の座席数削減や黙食の励行なども維持。同社は「社内で集団感染が起きれば取引先に迷惑がかかる。部品の供給網を守るため、当面は大幅なルール緩和は考えていない」とする。

医療・福祉施設は厳戒態勢

 岡山県内の医療・福祉施設では、重症化リスクの高い高齢者らが入院・入所しているとあって、8日も従来通り厳しい感染対策を取る施設が目立った。

 「今後も医療機関の物的・人的・心理的負担は大きくなると予想されます。医療提供体制を維持するためにも協力をお願いします」

 岡山済生会外来センター病院(岡山市北区伊福町)は、県が5類移行に合わせて作った院内感染防止の啓発ポスターをロビーに掲げ外来患者らに対策の徹底を強く促した。

 屋外のテントなどで行ってきた発熱者の受診対応は院内へ移したが、看護師がついたてで仕切った専用エリアで症状を聞き取り、感染疑いがある人は別室に誘導するなど厳戒態勢を敷く。流行「第9波」も想定し、向こう2週間は屋外設備を残し、いつでも戻せるよう備える。

 岡山大病院(同鹿田町)は入院患者との面会を引き続き制限する方針をホームページで表明。「がん手術などで免疫力の弱った患者の命を守るため、やむを得ない対応」とする。

 5類移行で新たにコロナ患者の入院に対応する病院でも模索が続く。倉敷市内の病院は角部屋を使い、医療用ガウンやフェースシールドなど職員の防護具着用を徹底、廊下に空気清浄器を置く。担当者は「小さな病院でひとたび院内感染が起きればマンパワー不足に陥り、病院機能を失いかねない」と危機感を強める。

 県病院協会の難波義夫会長は「ウイルスがなくならない以上、医療現場での油断は決して許されない。当面は厳しい対応を迫られそうだ」と話す。

 県老人福祉施設協議会によると、特別養護老人ホーム(特養)など高齢者施設でも状況は同じという。

 5類移行で感染者の全数把握が終わり「まん延に気付きにくくなる恐れがある」と特養・愛光苑(岡山市南区浦安本町)の筒井恵子施設長は不安顔。利用者約60人にマスク着用を求め、家族との面会も予約制と時間短縮を維持する。

 同協議会の赤畠耕一路会長は「加盟施設でクラスター(感染者集団)が相次いだことを踏まえると慎重にならざるを得ない。社会経済活動が活発化する中、利用者や家族にどこまで感染防止に協力してもらえるだろうか」と心配する。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年05月08日 更新)

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