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(13)嘔吐と下痢 倉敷中央病院小児科部長 桑門克治

桑門克治

 さーて、今回は「嘔吐(おうと)と下痢」にまつわるお話です。

 ノロウイルスとロタウイルス―おなかの風邪の代表選手

 胃腸の粘膜にとりついて増殖するウイルスはたくさんありますが、「ノロ」や「ロタ」は感染すると吐き気や水のような下痢が続いたりするので、とっても嫌な奴(やつ)です。高い熱も24時間くらい出ることがあります。残念ながらインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス剤のようなウイルスの増殖を抑える薬はありません。ロタウイルスにはワクチンができたので、生後6カ月までに免疫をつけておくと、つらい症状を避けることができます。オーストラリアでは入院が必要になる子が5分の1くらいに減ったそうです。ノロウイルスは種類がたくさんあるためワクチンを作れず、大人になっても罹(かか)ってしまう人が多いのです。

 病棟で集団発生

 11月中旬に、入院している子・家族・職員に嘔吐と下痢が発症しました。もともと小児病棟にはさまざまな感染症の子が入院しますので、手順を作って、嘔吐物やおむつの処理、アルコールや次亜塩素酸ナトリウムを用いた消毒、15秒以上の手洗いを励行していますが、それでも防げませんでした。密閉空間ではウイルスを含む粒子が空気中に浮遊すること、今年流行しているノロウイルスは新しい変異をもっており成人でも発病しやすいこと、不顕性感染(感染しても症状は出ないが感染源になる)があることなど、ウイルス感染対策の難しさを痛感しています。申し訳ありません。

 あなたは何秒間、手を洗いますか?

 3秒? 5秒?…それではおまじないか、お清めです。ぜひ15秒間お願いします。ご飯の前だけでなくおやつの前にも。肺炎や胃腸炎による子どもの死亡率を下げるため、ユニセフは毎年10月15日をWorld Handwashing Dayとして手洗いのキャンペーンをしています。ホームページで動画もご覧になれます。もうひとつ、19世紀後半に、せっけんが気軽に使えるようになり、その結果、伝染病や皮膚病の発生が激減したとの話もあります。ぜひ、せっけん、流水、15秒を手洗いの三つのキーワードにしてください。

 おなかの風邪じゃない病気との見分け方

 おなかの風邪の他にも嘔吐する病気はたくさんあります。気管支炎で咳(せ)き込んで吐くのもそうですし、ひどく頭を痛がるときには髄膜炎なども心配です。おなかの風邪のときには、便が出る前におなかが痛くなるのと、なんとなく頭が重い感じの軽い頭痛くらいのことがほとんどです。目つき顔つきがおかしかったり、痛みがひどいときには他の病気を探します。少し遅れて、普段とそうかわらない色の下痢便が出れば、まずはおなかの風邪。熱が24時間以上続いたり、便に粘液や血液が混じるときには細菌性腸炎のことがあります。

 おなかの風邪のときの水分補給・食養生

 腸が荒れると下痢になるし、胃が弱ると動きが鈍くなります。嘔吐のあとは吐かないくらいの量から少しずつ補給するのがコツです。落ち着いてくるとだんだん量を増やすことができます。初めは1時間くらいはあけて次の量をためすのがよいでしょう。血の巡りを保つには塩分も必要です。みそ汁の上澄みやスープ等がお勧めです。スポーツ飲料は塩分が少なく糖分が多すぎます。水やお茶には塩分も糖分も入っていないので、いろんなものと組み合わせるのがよいでしょう。

 液体を胃が受けつけてくれることを確認できたら、離乳食のときのようなおじやを少しずつ与えてみてください。でんぷん質や野菜、脂身のないタンパク質などをしっかり煮込んだものがおなかに優しいようです。日本の子どもたちの好きなものは弱ったおなかに負担をかけるものが多いので、口に入れるものは選んであげてください。これを食養生と言います。お菓子は隠しておきましょう。

 荒れた腸の粘膜を再生させる薬はありません。皮膚の擦り傷が治るのを待つように本人の再生能力を待ちます。これを日にち薬といいます。整腸剤はビフィズス菌の親戚で腸内環境の回復を手伝います。大人では腸の動きを抑える下痢止めを使うことがありますが、子どもの腸の動きを止めるとおなかが張って苦しくなることがあるので、お勧めしません。

 冬場は胃腸炎が増える季節です。手洗いと食養生で乗り切りましょう。

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 くわかど・かつじ 大分県立佐伯鶴城高、京都大・同大学院卒。島根県立中央病院を経て、2001年12月から現職。日本小児科学会専門医、日本腎臓学会専門医、京都大医学部非常勤講師
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年12月19日 更新)

タグ: 子供倉敷中央病院

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