文字 

(1)急速な進化を遂げる肝細胞がんの薬物療法 天和会松田病院院長 松田忠和

松田忠和氏

 肝細胞がんは、その前段階であるB・C型ウイルス肝炎の制御が可能となり、新規症例数は減少していますが、最近は生活様式の変化により脂肪肝からの発がんが増えています。私どもの施設でも3年前くらいから治療対象の肝細胞がんの原因疾患の50%以上が、脂肪肝からの発がんとなっています。

 肝細胞がんは根治させるのは困難ながんの一つですが、肝臓以外の場所(例えば肺、骨、脳)に転移を来していなければ、手術、ラジオ波焼灼(しょうしゃく)術、肝動脈塞栓(そくせん)化学療法(TACE)等の局所制御性の高い治療法があります。しかし、いったん肝外に転移が生じると有効な治療法がなく、治療に限界があり、延命効果も乏しく早期に患者さんを失うという残念な結果になっていました。

 2007年に分子標的薬(がん細胞などの特定の細胞だけを攻撃する治療薬)=図1=の一つであるソラフェニブが、SHARP試験と呼ばれる治験で肝細胞がんに対する予後延長効果のあることが示されました。肝外に転移が生じた肝細胞がんに対する治療選択枝が増え、進行性肝がんでもある程度長期生存が得られるようになりましたが、残念ながらソラフェニブは腫瘍縮小効果が期待されたほどでなく、副作用として手足症候群(手足の皮膚がむけたり、ピリピリした神経障害)があり、手を使う職業の方には使いきれないことが多くありました。

 その後ソラフェニブに代わる新規分子標的薬の開発が盛んに行われましたが、いずれの開発も失敗に終わってしまいました。しかしながら10年の空白期間ののち、17年と18年の2年間で立て続けに4剤の分子標的薬(カボザンチニブ・ラムシルマブ・レゴラフェニブ・レンバチニブ)の効果が証明され、患者さんに使用可能となりました。

 また、胃がん等で最初の化学療法と併用されるニボルマブ(製品名オプジーボ)などの免疫チェックポイント阻害剤=図2=や、免疫チェックポイント阻害剤と分子標的薬との併用療法であるデュルバルマブ(製品名イミフィンジ)+トレメリムマブ(製品名イジュド)が承認され、この春から医療現場に投入されています。このように肝細胞がんの薬物治療は今後も大きく変化し、肝細胞がん治療のパラダイムシフトが起こることが期待されます。

 日本肝臓学会により編纂された肝がん診療ガイドラインの治療アルゴリズムでも、13年版に全くなかった薬物療法が、21年版では有効性のある治療として一角を占めています。繰り返しになりますが、他のがんと比べ治療手段が多いのが肝細胞がんの治療の特色で、また分子標的薬や免疫療法の治療薬が一気に発達しつつあり、現在の治療法、治療薬を駆使して頑張っていれば、さらに有効な治療手段が現れる可能性が大きいと考えられるので、諦めず努力していくことが大切です。

     ◇

 天和会松田病院(086―422―3550)

 まつだ・ただかず 岡山大学医学部卒業。水島第一病院勤務などを経て岡山大学医学部第一外科助手を務め、1985年から天和会松田病院に勤務し現在に至る。2009年に松岡良明賞受賞。日本肝臓学会肝臓専門医、日本肝胆膵外科学会高度技能指導医、日本消化器外科学会消化器外科指導医など。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年07月03日 更新)

ページトップへ

ページトップへ