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(3)本当にただの便秘ですか? 天和会松田病院外科医長 勝部亮一

CT(左)で腸が詰まっている(円で囲った部分)ことが分かり、内視鏡検査(右)で直腸がんが確認された

勝部亮一氏

 皆さん、便はすっきり出ていますでしょうか。排便習慣や排便回数は個人差が大きく、みなさんの言う「便秘」が意味していることもさまざまです。便秘とは「健康時に比べて排便の回数・量が著しく減り、便が滞る状態」と辞書に書かれていますが、慢性便秘症診療ガイドラインでは「本来体外に排出すべきふん便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。

 便秘は女性に多い病気と思われていますが、これは女性ホルモンや筋肉量などが関係しています。しかし、男性も加齢に伴い患者さんが増加し、高齢者では男女差が消失するとされています。

 不規則な生活・バランスの偏った食事・運動不足・ストレスなども便秘の原因となるため、便秘になる患者さんの数は以前よりも多くなっています。また、便秘になるとQOL(Quality Of Life、生活の質)が低下するだけでなく、心疾患・脳血管障害の発症・死亡リスクも上昇すると言われています。

 このように身近で実は怖い便秘ですが、便秘の治療でまず行うことは食事・運動・睡眠・排便習慣などの生活習慣の改善です。バランスの良い食事を1日3回規則正しく摂取し、適度な運動を行い、十分な睡眠を取り、便意を感じたら我慢せずにトイレに行くことが大切です。また、水分摂取量が不足すると便が硬くなりやすいため、しっかり水分を取ることも必要です。

 とはいえ、忙しい現代人が生活習慣を改善するのは本当に大変です。生活習慣の改善でも十分に症状が改善しない場合には薬物療法を行います。以前は酸化マグネシウムと刺激系下剤がよく使用されていましたが、最近では使用できる便秘薬の種類も増えており、今までよりも自然に近い形で排便できるようになってきました。便秘にもいろいろな種類がありますので、状態に合わせて薬を使い分けることが重要です。

 しかし、ただの便秘と思っていると危険な場合もあります。もともと便秘気味であれば検査をせずに市販の下剤を飲み続けたり、何日も便が出なくてもいつものことかなと思って様子を見てしまうこともあるでしょう。多くの場合は問題ないかもしれませんが、実は大腸がんで詰まりかけていることがあります=写真参照。また、詰まるような原因がなくても、硬い便がずっと同じ場所にあることで腸に潰瘍ができたり穴が開いたりすることもあります。表のような症状がある方は、特に注意が必要です。ただの便秘と思う前に、一度検査を受けることをお勧めします。

 便秘は身近な病気ですが、放置すると危険な場合もあります。便が出にくいと思ったら、まずは病院を受診して検査を受けましょう。

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 天和会松田病院(086―422―3550)

 かつべ・りょういち 岡山高校、岡山大学卒。倉敷成人病センター、中国中央病院、岡山大学病院などで勤務。2015年10月より現職。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年08月07日 更新)

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