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(4)肝機能異常 放置していませんか? 天和会松田病院理事長 松田達雄

松田達雄氏

 肝臓は、私たちが生きていくためには必須の臓器で「解毒/タンパク質の合成と貯留/胆汁の合成と分泌」といった主な働きがあります。そのため健康診断でも採血で肝臓の障害や機能を見る採血項目が設けられていることがほとんどです=表1

 しかし肝臓病のやっかいなところは、初期だと患者さん自身にほとんど症状がなく、肝機能障害を指摘されても病院受診につながらないことが多く、肝硬変や肝臓がんに進行してから肝臓病がみつかることが少なくありません。

 岡山大学病院で肝移植グループに属していた時は、末期の肝不全から移植で生還した患者さんに関わらせていただくこともあれば、残念ながら移植までたどり着けず命を落とした患者さんを経験したこともあり、肝疾患の早期発見の重要さを身をもって感じました。

 今年、奈良県で開催された日本肝臓学会で「奈良宣言2023」が発出されました。肝機能検査として血液検査で広く測定されているALT値が30を超えていた場合、医療機関を受診することを勧めており、肝疾患の早期発見・早期治療につなげることを目的としています=図1、2(日本肝臓学会 奈良宣言2023より抜粋)。

 肝障害の原因として(1)ウイルス性肝炎(B型肝炎/C型肝炎)(2)脂肪肝(3)アルコール性肝障害(4)薬剤性肝障害(5)自己免疫性肝炎―などが挙げられます。いずれの原因にしても適切な診断治療を受ければ、肝硬変、肝がんへの進行は防ぐことができます。B型肝炎、C型肝炎の治療は近年進歩しており、早期に治療開始すれば、ウイルス肝炎で命を落とすことはほとんどありません。

 肥満人口が増え生活習慣病を基盤とする脂肪肝が増えていますが、肝硬変に進展する前に生活習慣の改善をすることで脂肪肝の改善が期待できます。アルコール性肝障害は断酒で改善しますが、患者さんで断酒が難しい方でも、飲酒欲求を抑え飲酒量を低減させる新しい薬剤(セリンクロ)が近年開発され、薬によって飲酒量を減らす手助けができるようになりました。

 健康診断で肝機能障害が指摘された方は、自覚症状がなくてもぜひお近くの医療機関で一度相談してみてください。そのことが将来の重大な肝疾患を防ぐ一歩となるかもしれません。

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 天和会松田病院(086―422―3550)

 まつだ・たつお 岡山白陵高、慶応大医学部卒。慶応大病院、がん研有明病院で腹腔鏡手術の修練を積み、米国シカゴ大学への留学を経て2018年岡山大病院に赴任。肝胆膵(すい)外科診療を中心に従事し、20年から天和会松田病院に勤務。消化器外科専門医、消化器内視鏡専門医、肝臓専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年09月04日 更新)

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