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(54) しびれ痛みの外科 岡山済生会総合病院 中島正明脳神経外科医長(45) 椎間板温存する鍵穴術 痛み少なく回復早い

多くの患者がいるコモンディジーズ(よくある病気)の治療を責務と考える中島医長のチームは、常に患者や開業医とのコミュニケーションを大切にしている

 円柱状の椎体の縁に沿って背骨全体を結びつけるしなやかな帯が後縦靱帯(こうじゅうじんたい)。それが骨のように硬く分厚くなり、神経を圧迫する後縦靱帯骨化症は難病(特定疾患)に指定されている。難しい手術手技で中島たちが駆使するのが「鍵穴」だ。

 椎体の側面にうがつ穴は直径約8ミリ。中に同3〜4ミリのドリルを挿入し、側方から回り込んで患部を削り取る。脳活動を支える椎骨動脈が近く、難易度の高い手術だが、「われわれは血管を扱い慣れている。顕微鏡で見ながらギリギリの場所に穴を開けられる」と自信をのぞかせる。

 多くの施設は椎体ごと取り除いて腸骨を移植したり金属に置き換えているが、それではクッション役の椎間板も失われてしまう。椎間板を温存する鍵穴術は術後の痛みが少なく、回復も早いという。

 首の後ろから脊柱管を広げる椎弓形成術にも鍵穴手術を導入。従来は縦に切開し、15〜20センチの大きな手術痕が残っていたが、中島たちは皮膚のしわに沿って横に3センチほどの切開でこなす。「傷を見えなくしてほしい」という女性患者の願いに応えて工夫した。

 「広く切って深いところは狭くなる手術がほとんどだと思うが、狭く切って奥に進むと広い手術視野を確保する。それが鍵穴の極意だと思う」と説く。

 新しい術式は一朝一夕に思いつくわけではない。手術体位もそうだ。

 10年前、体重100キロを超える患者の脊椎手術を始めると、血圧が急に下がって麻酔続行が困難になった。脊椎はうつぶせで手術するのが常識とされていたが、「横向きなら胸も腹も圧迫されず、血圧も維持できるはず」とアイデアを温めていた中島は、麻酔医に横向き体位への変更を提案。問題なく手術を成功させた。

 学会の枠にとらわれず、自ら行動して学ぶ。パリ大のベルナール・ジョルジュ教授、大津市民病院の木原俊壱手術部長をはじめ、国内外の第一人者と見込んだ人物の門をたたき、教えを請うてきた。

 腰の椎体がずれるすべり症は開腹して腹側からつぶれた椎間板を取り除き、金属ケージを入れて癒合させる。国内ではほとんど行われていないが、スイス・バーゼル大のバーナード・ジャネレイ教授に学んだ。

 背中側からのアプローチに比べ、患部を完全に切除でき、神経を傷めるリスクもない。「何度も勉強に行って断られたことは一度もない。第一人者はみんな『よく来た』と歓迎してくれる」と言う。

 しびれ痛み外来を開いて10年。脳神経外科が昨年行った320件の手術のうち182件(56・8%)は脊椎手術が占めるまでになった。専門医5人全員が水準以上の技術を身につけることを目指し、短期留学や研修に出られるよう配慮。深夜に及ぶ手術をサポートする手術室スタッフや病棟看護師とのチームワークを大切にする。

 市街地を離れれば、病院に出向くのが難しい高齢者も多い。地域に足を運び、5人、10人の小さな患者家族の集まりで勉強会を開く出前活動にも乗り出した。グローバル+ローカル=グローカルが合言葉だ。(敬称略)

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 なかじま・まさあき 鳥取県立鳥取西高、岡山大医学部卒。香川県厚生連屋島総合病院で初期研修後、同大大学院で医学博士修得。フランス、スイス、イタリア、米国などの施設で手術研修を重ね、2001年から岡山済生会総合病院に勤務。毎年、小豆島オリーブマラソン全国大会に出場している。

 脊椎の構造 ヒトの脊椎は24の椎骨(頚椎(けいつい)7、胸椎12、腰椎5)と仙骨、尾骨が積み重なっている。それぞれの椎骨は円柱状の椎体とアーチ状の椎弓が組み合わさり、椎体同士は椎間板のクッションを挟み、前後は靱帯で結ばれている。椎体と椎弓のすき間が連結して脊柱管となり、脊髄や神経根が通っているが、圧迫されるとさまざまな痛みやしびれが生じる。

 外来 中島医長の外来診察は毎週月・水・金曜日。かかりつけ医の紹介状を持参し、予約が望ましい。



岡山済生会総合病院

岡山市北区伊福町1の17の18

電話 086―252―2211

ホームページ http://www.okayamasaiseikai.or.jp
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年01月21日 更新)

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