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(15)病気を持ったこどもたちの巣立ち(成育医療) 倉敷中央病院小児科医員 荻野佳代

おぎの・かよ 山梨県立甲府南高、北海道大卒。山梨県立中央病院、神奈川県立こども医療センターレジデントを経て、2010年4月から現職。日本小児科学会専門医。

わたしが病気だったころ…

こどもからおとなへ

 こどもの森にいる、病気を持ったこどもたちにもいつの日か、森を離れ、巣立っていくときがやってきます。そのときにこどもたちが途方に暮れてつまずいてしまわないように、周りのおとなたちが支えてあげなくてはなりませんね。

自立するこどもたち

 こどもたちはある時ふと思います。どうして薬を飲まなくてはならないのだろう。なぜ病院に通わなくてはならないの? この傷はいったい何なのだろう。こどもたちのからだはこどもたちのもの。周りのおとなは伝えてあげなくてはなりません。過去にあったこと、現在の状況、将来の可能性を。

 おとなになって持病が原因で体調を崩した人がこう言いました。「自分の病気はもう治ったのだと思っていました」。一人暮らしを始めて、薬をやめて具合が悪くなってしまった大学生。「元気だったから飲まなくてよいと思った」。ある中学生の女の子が思い悩んで言いました。「病気のことはお母さんに聞いてはいけない、タブーなのだと思っていました」

 病気が深刻であればあるほど、こどもたちに説明するのが難しくなります。おとなたちは怖くなるのです。傷ついてしまわないだろうか。希望を失ってしまわないだろうか。しかし反対にこどもたちに伝えないことで、不安を与えたり、困ったことになったりするのです。「あのときに自分が悪いことをしたからこんなことになったのだ」と自分を責めたり、「みんなが隠しているからわたしは聞いてはいけないのだ」と閉じこもったり、「自分の将来はどうなるのだろう」と悲観したり、そんなことが実際にあるのです。

こどもたちに説明するタイミング

 どのタイミングでどのように話をしたらよいのか、きっと答えはありません。こどもを取り巻く環境やその子の性格によると思います。でもきっと、周りのおとなが考えているよりもずっと、こどもたちには乗り越えていく度量があるのだと思いますよ。

 わたしたち小児科医は、日常的にいろいろな場面でこどもたちにも説明をしています。こどもたちの理解の程度を把握して、説明しているのです。4歳の子に、「ちょっとちっくんするよ、もう終わったからね。じっとしていてね」と伝えると、怖がることなく、診察や処置をがんばることができます。また6歳の子に、「ばい菌をやっつけるためのお薬だよ。入院してがんばろうね」と説明すると、納得して入院生活を送れます。小学生になって、手術の傷があったり背が小さかったり、他の子とどうして違うのか説明することで、自分に自信を持つことができます。

 思春期の頃になると、生死に関わることも悩むようになり、不安が大きくなります。こどもたちにわかる言葉で説明して、困難を乗り越えていけるようにサポートしていく必要があります。さらに中学生、高校生と自立していくこどもたちに病気の説明をすることは、治療の継続の意味でとても大切です。おとなになって自分の子を持とうと思ったとき、妊娠や出産のリスクを説明して、いっしょに準備していくことが必要になるかもしれません。

病気を持ったこどもを取り巻くおとなたち

 巣立っていくこどもを支えていくのは家族だけではありません。医師や看護師、臨床心理士、保育士など病院のスタッフも一緒に支えていきます。どんなふうに送り出したらよいのか、答えはありません。一緒に悩んでよい方法を考えていきたいと思っています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年01月21日 更新)

タグ: 子供倉敷中央病院

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