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小林孫兵衛医学振興財団 万成病院理事長・院長 小林建太郎

 小林孫兵衛をご存じな方はまずいないだろう。孫兵衛は私の祖父にあたり、岡山赤十字病院の初代院長だった。昭和18(1943)年に49歳の若さで他界しており、私も会ったことはない。

 孫兵衛は医学研究に熱心で、岡山医学専門学校を卒業後、ドイツ・ベルリン大学、スイス・ベルン大学に長年留学した後、日赤の院長を務めた。孫兵衛の生誕100年を記念して、若手の医学研究者に寄与する目的で、平成5(93)年に設立されたのが「小林孫兵衛記念医学振興財団」である。

 昨年7月の万成病院創立式典で、第20回の研究助成金授与式も行われた。通算の受賞者数も150人を超え、多くの受賞者がさらなる研鑽(さん)を積み、大学教授として、新しい研究者を育ててくれている。財団理事長の私にはうれしい限りである。式での受賞者それぞれの笑顔が忘れられない。

 笑顔は良いものである。しかし、残念ながら認知症が進行して重度になると笑顔はなくなる。外界への関心もなくなっていく。何とか笑顔を取り戻せないものだろうか?

 当院のモットーは「ひろがれ!笑顔」である。スタッフの笑顔を大切にしたい。スタッフの笑顔は患者さんに、患者さんの笑顔は家族に、そして地域にひろがっていく。実際、重度の認知症の方が最後までわかる相手の表情は笑顔である。

 数年前、貴重な経験をした。重度のアルツハイマー型認知症で寝たきりとなり表情もなく、食事も食べられなくなったケースであった。昔は茶道の先生をされていたので、車いすで院内のお茶会に出てもらったところ、笑顔が出てお茶菓子を食べ、作法通りにお茶を飲まれた。以後も食事はほとんど食べなかったが、お茶菓子は食べられた。茶道の力はすごいと感心した。

(2013年1月31日付山陽新聞夕刊「一日一題」)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年01月31日 更新)

タグ: 万成病院

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