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不眠症 認知行動療法で改善 慈圭病院・難波副院長に聞く

不眠症治療プログラムについて話す難波副院長

柔らかな明かりでリラックスできるストレスケア病床の共用フロア

治療中に利用するストレスケア病床の個室

 快適な睡眠は心身の健康を維持するための重要な要素だが、ストレス社会を反映し、多くの人が不眠に悩んでいる。慈圭病院(岡山市南区浦安本町)は適切な睡眠習慣を取り戻してもらおうと、不眠症治療プログラムを考案した。一定期間入院して集中的に治療を行うのが特徴だ。難波多鶴子副院長に睡眠障害の症状や改善するために心がけること、治療の内容を聞いた。

 ―不眠症にはどういうタイプがあり、心身にどんな悪影響が及びますか。

 床に就いたもののなかなか眠れない入眠困難、いったん眠りに就いた後、何度も目が覚める中途覚醒、起きたいと思っている時間よりも30分以上前に目覚めてしまう早朝覚醒の3種類があります。不眠が長引けば集中力や思考力、記憶力が低下し、無気力やイライラ感も募ります。血圧や血糖値が上がり、生活習慣病のリスクを高めます。免疫機能にも影響し風邪を引きやすくなったりします。

 ―不眠症の患者はどの年代に多いのでしょうか。

 成人の30~40%に何らかの不眠症状があり、そのうち10%は慢性的な不眠に悩んでいます。不眠を訴える割合は高齢になるほど高く、20~30代は14%ですが、60歳以上になると25%になります。

 ―少しでも安眠するためにどのようなことを心がければよいのでしょう。

 まず睡眠時間にはこだわらず、何時間寝なければいけないというようには考えないことです。床に就くのは眠くなってからにしてください。眠くないのに早くから布団に入るのは逆効果です。深夜に光を浴びるのもよくありません。アルコールは眠りを浅くするので禁物です。そして、できるだけ同じ時間に起床するようにしてください。

 ―プログラムでは具体的にどのような治療をするのでしょうか。

 薬物療法、睡眠衛生指導、認知行動療法が柱となります。睡眠衛生指導とは、厚生労働省がまとめた「睡眠障害対処12の指針」をはじめ、適切な睡眠を取るための習慣や生活環境に関する知識・情報を学ぶもので、治療の基本に位置付けられます。一般的な座学とは違い患者さんの悩みなどを聞きながら双方向で話し合います。睡眠薬の効用も知ってもらいます。1日当たり4時間ほどプログラムに取り組んでもらいます。それ以外にも個々の相談には随時応じます。

 ―認知行動療法について教えてください。

 うつ病などの精神疾患の治療において既に確立されているものです。たとえば「今夜も眠れないのではと思うとベッドに入るのが怖い」と考えてしまうと、不安や緊張が高まって、さらに目がさえるという悪循環に陥ります。こういうネガティブな行動や考え方を修正して睡眠を改善する心理療法です。

 床に就いた時間や実際に眠りに就いた時間、その日の出来事などを記入する「睡眠日誌」を付けます。睡眠の状況を客観的に分析し、睡眠を妨げる要因や改めるべき習慣に気付くことができるのです。筋肉をほぐすリラクゼーション法やアロマ療法も学んでもらいます。

 ―治療プログラムを入院で行う理由は。

 外来よりも十分な時間を確保できるのが大きな理由です。不眠症の認知行動療法に関する市販のテキストもあり、独力で取り組む方もいますが、睡眠日誌の記入をはじめ、1人で続けるにはかなりのエネルギーが必要です。同じ悩みを抱える患者さん同士で励まし合い、スタッフとコミュニケーションを取りながら取り組めば、モチベーションも上がりやすいでしょう。ただ、長年続いている症状が2週間の入院で劇的に改善するわけではありません。入院中に学んだことを退院後に実践することが大事です。

 ―入院中の環境はいかがでしょうか。

 個室のストレスケア病床(8床)を活用します。少しでもリラックスできるよう、ベッドはダブルサイズで、バスとトイレはセパレートです。共用のフロアには大型テレビ、ソファを置いています。専用エレベーターがあり、出入りの際、他人と顔を合わせることはありません。外出や就寝時間は自由です。

 ―不眠症に悩むあらゆる人が治療プログラムの対象になりますか。

 日中に過度の眠気が生じるナルコレプシーや睡眠時無呼吸症候群などは専門的な検査と治療を要するので対象外です。うつ病などの精神疾患のある人はプログラムへの参加で精神症状が逆に悪化する恐れもあるのでお断りする場合もあります。気になる方はまずご相談ください。



 慈圭病院(086―262―1191)。

 なんば・たづこ 岡山大学医学部卒。岡山赤十字病院、山陽病院、岡山大病院、岡山県立岡山病院(現・岡山県精神科医療センター)を経て、1997年から慈圭病院に勤務。日本内科学会認定内科医、日本神経学会専門医、日本精神神経学会専門医・指導医など。医学博士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2024年02月05日 更新)

タグ: 慈圭病院

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