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(6)動脈管依存性先天性心疾患の診断と初期治療、高次医療機関への橋渡し 津山中央病院小児科主任部長兼地域周産期母子医療センター副センター長 梶俊策

地域周産期母子医療センターのスタッフ

梶俊策氏

 津山中央病院は地域周産期母子医療センターとして、合併症妊婦、多胎などのハイリスク妊娠や早産、出産後直ちに治療が必要な新生児の管理を行っています。

 お母さんのおなかの中で、赤ちゃんは酸素や栄養をへその緒(臍帯(さいたい))からもらっていますが、出産を境に自分で呼吸しお乳を飲むようになります。劇的な環境変化に対応していく血液循環の変化と、その過程で発症する心臓の病気についてお話しします。

 羊水の中にいる胎児では、最も酸素が多いのは臍帯から心臓へ向かう血液です。これを大事な脳や内臓にまっすぐ届けるため、大人とは違った通り道が二つあり胎児循環といいます=図1。一つは卵円孔です。心房中隔に開いており、臍帯から右心房に戻ってきた血液は左心房・左心室へ入り、肺を通らず、全身へ届けられます。もう一つは動脈管です。肺動脈と大動脈をつないでいます。肺動脈の血液の半分を下大動脈へ流して肺への血流を減らしています。お母さんからもらった大事な酸素を肺に寄り道せずに脳や内臓へ届ける仕組みです。

 さて「おぎゃあ」と言った途端に事態は一変します。臍帯から酸素はもう来ません。呼吸を始めた肺へ血流を増やすため卵円孔や動脈管を閉じて、大人と同じ血液の流れになります。

 ところが、動脈管が閉じてしまうと不都合が生じる生まれつきの心臓病の一群があります。肺動脈弁閉鎖症=図2a、重度の肺動脈狭窄(きょうさく)症、三尖(さんせん)弁閉鎖症、完全大血管転位症=図2b、大動脈縮窄症=図2c、大動脈離断症、左心低形成症、ファロー四徴症などです。弁や血管が閉鎖していたり、とても狭いため、動脈管を迂回(うかい)路にして生きています。これらを動脈管依存性心疾患といいます。動脈管が閉じると急速に状態が悪化します。

 早く見つけて、手術のできる大学病院へ行ってもらわないといけませんが、時間に猶予がありません。そこで、まずプロスタグランジンというお薬を点滴します。これによって閉じかかった動脈管を開いて迂回路の流れを取り戻し、高次医療機関へ新生児を搬送できる余裕をつくります。

 妊婦健診で超音波検査によって胎児診断し、準備して出産できるように努めています。しかし大動脈縮窄など心臓外の血管の形態異常では胎児診断が難しい場合もあるため、NICU(新生児集中治療室)に入院した赤ちゃんは全員に心臓超音波検査を行い早期発見に努めています。

 動脈管が閉じるのに数時間から数日を要しますので、元気に生まれた赤ちゃんに数日してから症状が出て近隣の産婦人科から紹介いただく場合があります。また産婦人科を退院した後に動脈管が閉じてお母さんが気付くこともありました。息が速い、ミルクの飲みが悪くなったなどの症状にお母さんが気づいて高速道路を使って救急外来に来てくれました。お子さんの変化に気づくお母さんの洞察力に感服することが少なくありません。赤ちゃんの一番近くにいるお母さんや産科看護師・助産師さんの気づきから早期の対応が始まります。

 当院の地域周産期母子医療センターは昨年リフォームし広くなりました。今後も地域の産科施設との連携を密にして県北の周産期医療を支えていきます。

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 津山中央病院(0868ー21ー8111)

 かじ・しゅんさく 鳥取大学医学部卒。同大付属病院を経て、1996年、津山中央病院に赴任。2016年から現職。医学博士。日本小児栄養消化器肝臓学会代議員、ミトコンドリア病医療推進機構理事。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2024年02月05日 更新)

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