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(7)末梢神経損傷について 津山中央病院手外科・リハビリテーション科部長 福田祥二

福田祥二氏

 損傷の種類は、(1)打撲・挫滅などによる神経の一時的なまひ(ニューロプラキシア)(2)骨折や脱臼で神経が引き伸ばされることによる神経内部の軸索のみの損傷(アクソノトメーシス)(3)切創などによる明らかな神経断裂(ニューロトメーシス)などがあります=図1。また断裂にも挫滅や欠損を伴うものも存在します。(1)に対する治療は保存的で、(2)に関しては回復の経過が思わしくなければ手術となります。(3)に対しては縫合が必要です。

 神経だけを縫合する場合、上肢では伝達麻酔などの部分麻酔で縫合できることが多いですが、安静にできない方や血管・腱(けん)などの損傷を伴う場合には全身麻酔が望ましいでしょう。神経縫合は10~20倍程度の顕微鏡下に8―0ナイロン糸(外径0・04ミリ程度)や10―0ナイロン糸(同0・02ミリ程度)を用いて行われます。

 神経は上膜に覆われており、その中に(部位によって数は異なりますが)周膜に包まれた神経束が存在します=図2。手技的には上膜縫合で十分なことが多いですが、神経束を合わせるために太い神経では周膜縫合あるいは上膜・周膜縫合などを適宜選んで行っています=図3。神経の断面をきれいに合わせることや過度な緊張を与えないことなど経験と技術を要する手技となります。

 一般に損傷された神経の回復は術者の技量はもとより、その神経および周囲組織の損傷の程度と個人の回復力(主には年齢)に左右されます。全ての機能が回復することは困難です。切断端が挫滅されて使えないときや元々欠損がある場合には神経移植が必要となります。上肢の手術では、直径が1~2ミリ程度の神経なら前腕の皮神経や後骨間神経の知覚枝を採取しますが、より太い神経であれば下腿から腓腹(ひふく)神経を採取し束ねて移植します(ケーブルグラフト)。ただし採取部位に何らかの知覚障害を残します。

 これに対して人工神経が近年開発されてきました=図4。ただし現状では3センチ未満の欠損で、主に知覚神経に使用されています。また神経損傷後に生じる有痛性の断端神経腫の治療にも利用されています。自身の経験では比較的良好な術後経過を認めています。ただし、神経損傷を契機に発症する慢性の神経障害性の痛みに対しては、いまだ満足のいく成績が得られていないようです。何はともあれ特に鋭利な外傷後に傷より遠位にしびれや運動障害を感じるようなら、早めに適切な病院を受診することが大切です。

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 津山中央病院(0868ー21ー8111)

 ふくだ・しょうじ 広島大学医学部卒。同大医学部付属病院、広島県立病院、広島市民病院、土谷総合病院(広島手の外科・微小外科研究所)などを経て、2002年に津山中央病院へ。19年から現職。日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、日本手外科学会専門医・指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2024年02月19日 更新)

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