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(2)内視鏡は泌尿器科の膀胱鏡から始まった 岡山ろうさい病院副院長・泌尿器科部長 那須良次

那須良次氏

 最近、内視鏡による治療が広く普及しています。内視鏡とは先端にカメラが装着された人体内部を観察することを目的とした医療機器です。口や肛門から挿入して胃や腸に使用する消化器内視鏡、腹壁の小さな穴から挿入しておなかの中に使用する腹腔(ふくくう)鏡などさまざまな内視鏡があります。現代の医療に欠かせない内視鏡ですが、実は泌尿器科の膀胱(ぼうこう)鏡がその出発点でした。

 ■膀胱鏡

 膀胱鏡は1877年、ドイツ人医師ニッチェにより実用化されました=写真1。その後アメリカのエジソンが開発した豆電球を先端に装着し、膀胱内をさらに明るく照らすことに成功しました。日本では1918年、国産の膀胱鏡が発売されました。当初は膀胱を観察するだけの内視鏡でしたが、電気メスなどの進歩により、前立腺や膀胱の膀胱鏡を使った内視鏡手術が可能になりました。前立腺肥大症や早期の膀胱がんの内視鏡手術は泌尿器科で最もポピュラーな手術です=写真2。

 ■腹腔鏡

 1901年ごろ、やはりドイツで膀胱鏡を用いて犬のおなかの中を観察したことから腹腔鏡の歴史が始まりました。その後、腹腔鏡専用の手術器具や解像度の高いテレビモニターが開発され、83年にドイツで虫垂切除術、87年にフランスで胆のう摘除術、90年にはアメリカで腎摘除術が腹腔鏡手術で行われました。

 92年には世界に先駆けて日本で泌尿器科医によって副腎摘除術が行われました。腹腔鏡手術には従来の開腹手術に比べ傷が小さく術後の痛みが軽いという大きなメリットがあります。また術者だけでなく助手、麻酔科医師、看護スタッフが同じテレビモニターを見ながらより安全で出血の少ない手術を行うことが可能になりました。

 腹腔鏡手術はさらに改良され、ロボット支援下内視鏡手術(ロボット手術)に進化しました。ロボット手術は91年の湾岸戦争の時に戦傷者に対する遠隔手術を目的にアメリカで開発が始められました。2000年に医療機器としてアメリカで承認され、日本では12年に前立腺がんの手術で保険適応となりました。

 ロボットは拡大のできる3Dカメラの目を持っていて、テレビモニターに映し出されたクリアな画像を見ながら術者がロボットアームを操作して手術します。精密さと柔軟性のあるロボットアームは体の中の狭い空間でも正確に動き、従来の開腹手術や腹腔鏡手術に比べてより精度の高い手術が可能になりました。

 泌尿器科の前立腺がんから始まったロボット手術ですが、胃がん、大腸がん、食道がん、肺がん、子宮がんなどさまざまな疾患に適応が広がりつつあります。

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 岡山ろうさい病院(086―262―0131)

 なす・よしつぐ 岡山大学医学部卒。高知医療センターを経て2008年7月から岡山ろうさい病院に勤務。日本泌尿器科学会専門医・指導医、西日本泌尿器科学会評議員、日本ミニマム創泌尿器内視鏡外科学会練達医、アメリカ泌尿器科学会メンバー、ヨーロッパ泌尿器科学会メンバー、卒後臨床研修指導医、医学博士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2024年04月16日 更新)

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