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(1)新たな地域ニーズへの対応 社会福祉法人旭川荘副理事長 新井禎彦

新井禎彦氏

 旭川荘は1957(昭和32)年の運営開始以来、岡山県内の障害児者や高齢者の医療福祉に取り組んできました。医療と福祉の両面を担う旭川荘療育・医療センターを中核に、これまで多くの入所施設に軸足を置いて運営してきました。創設期の入所施設には、障害者の権利を守り、生活の場を確保するという価値観が重要でした。時代の要請にあった大切な役割を担ってきました。

 近年、社会の成熟とともに、障害者の障害を個人の多様性(di(ダイ)versity(バーシティ))の一つととらえ、多様性を尊重しながら社会に包摂(inclusion(インクルージョン))し、同じ社会の一員として共に生きていく社会像が求められ、医療福祉像も大きな変革の時を迎えています。障害者の生活の場も、diversity&inclusionの視点に立てば、家庭での生活を中心に、状況によって地域の中での生活の場を確保できることが求められます。

 旭川荘が運営している既存の入所施設は、他の生活の場の選択が困難な状況の方々を受け入れる大切な役割を担う使命があります。同時に旭川荘の職員の能力を最大限活用して、障害者の家庭や地域での生活を支える役割を担う責任を担っています。その重要な対象としては、医療的ケア児と強度行動障害が存在します。

 医療的ケア児とは、人工呼吸器の装着やたんの吸引といった医療的行為が日常的に欠かせない方々です=表1。医療的ケア児への在宅支援の充実のために、「岡山県医療的ケア児支援センター」を開設し、ワンストップで相談対応、助言、情報提供、関係機関との連絡調整を行っています。さらに訪問診療、訪問看護の充実のために、訪問診療を行う診療所を新設する準備を進めています。また入所施設での短期入所受け入れ機能の充実を進め、医療的ケア児のいる家庭を支えるサービスを充実させています。

 強度行動障害とは、知的障害を伴う自閉症などで、精神的に環境の変化に対応しきれずに自他にとっても危険となりうる自傷や物を壊すといった状態のことです=表2。地域で生活するためには適切な環境での支援により状態を整えていくことが求められます。このためには医療、福祉、行政が連携して状態に最適な支援を行う必要があります。

 本年度、国の施策が強化されたことに合わせ、対応困難な状況から地域移行を進めるための専門的機能を強化した中間型施設の設立準備を進めています。これまでの個別の対応困難事例への経験と連携を生かして成果を上げることを目指しています。

 これらをはじめ、今後、旭川荘だからこそできる新たな地域のニーズへの対応を強化してまいります。

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 旭川荘(086―275―0131)

 あらい・さだひこ 岡山大学医学部卒。米国ロマリンダ大学に留学後、同国クリーブランドクリニックに勤務。2011~13年、16~18年の2回にわたり、国際協力機構(JICA)の草の根技術協力の一環で、ベトナムの医療技術支援に携わった。岡山大学医歯薬学総合研究科心臓血管外科准教授を経て、2019年から旭川荘に勤務。23年から副理事長。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2024年04月16日 更新)

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