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(上)岡山済生会総合病院内科主任医長 渡辺恭子

わたなべ・きょうこ 倉敷南高、高知医大(現・高知大医学部)卒。岡山大、高知県立中央病院、倉敷市立児島市民病院などを経て2008年から現職。内科学会指導医・専門医、糖尿病学会専門医、抗加齢学会専門医、スポーツ医、産業医など。

図1

図2

 アンチエイジング(抗加齢)というと、美容外科かなと思われますが、抗加齢学会の分野は皮膚科、循環器、糖尿病、老年学、婦人科、泌尿器科を含む幅広いものです。東大、順天堂大、同志社大、近畿大等に抗加齢学講座やアンチエイジングセンターが設けられ、京大、慶応大、東海大、徳島大、愛媛大にアンチエイジング外来やドックがあります。

 さて「人は血管から老いる」と言われ、動脈硬化の予防が大切です。放っておくと狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、認知症を起こしやすく、約3割の人が動脈硬化関連疾患で亡くなっていますが、症状がないのがくせ者です。

 肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙等が危険因子で、定期的な動脈硬化の検査をお勧めします。その検査は、FMD(早期の動脈硬化検査)や脈波検査(ABI、PWV、CAVI)、頸動脈(けいどうみゃく)エコー(IMT)です=図1参照

長寿遺伝子

 長寿遺伝子はカロリー制限で活性化されるといわれます。カロリー制限された線虫やクモ、魚、ラットなどでは1・4~1・9倍寿命が延びます=図2参照。また米国の研究でアカゲザルを通常食と30%カロリー制限した2群に分けて20年飼育したところ、カロリー制限群で寿命が延び、見た目も若く、毛もつやつやで、がんや生活習慣病が少ないと2009年に発表され、話題になりました。しかし昨年、別の研究所(エサの内容、サルの種類が違う)では、生活習慣病は改善したものの寿命は延びなかったとの報告もあり、哺乳類ではさらに研究が必要です。

酸化ストレス

 活性酸素が細胞の破壊や老化を進めるという説があります。活性酸素は身体の中でも作られますが、大気汚染、放射線、紫外線、たばこの影響も受けます。

 日焼けは紫外線が遺伝子に傷をつけることで起こり、光老化は皮膚(しみ・しわ、皮膚前がん症)や目にも現れます。秋田と鹿児島で比較した研究で、紫外線量が秋田より1・6倍多い鹿児島では、老人性色素斑(しみ)が20年若く、しわは約6年若くできました。また沖縄と兵庫の比較で、紫外線量が兵庫の2倍ある沖縄では、皮膚前がん症の発症が4・5倍多かったとの報告があります。

 とはいえ、日光には骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の予防や睡眠のリズムを保つ効果もあります。5月頃から紫外線は多くなりますが、直射日光を避け、日傘を差したり、帽子や長袖服を着用、日焼け止めを使うようにしましょう。

運動

 アンチエイジングにとって運動はとても重要なものです。1日30分以上、週3~5日の運動が推奨されていますが、なかなかできている人は少ないです。

 一昨年、台湾の40万人以上の男女を8年追跡した研究で、1日15分でも中等度(早歩き程度)の運動をする群は、全くしない群に比べて3年寿命が長く、死亡率が14%下がると報告されました。

 ハーバード大学のジョン・レイティ先生は「脳を鍛えるには運動しかない」という本を書かれています。他にも、65歳で1週間の歩行が多い人ほど脳の萎縮が少なく、13年後に認知症になる人が少なかったとか、アルツハイマーモデル動物で良い環境で運動させるとアミロイドβ蛋白(たんぱく)(アルツハイマーで脳にたまる物質)が除去されるという報告があります。1700の研究を解析したところ、運動する人ではうつ病も少ないとのことでした。

 仕事で多忙な方々もわずかに空いた時間を生かし、歩幅を大きく腕を振って歩くなど少し汗ばむくらいの運動を取り入れ続けることが大事です。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年03月18日 更新)

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