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(1)歴史と理念 倉敷中央病院副院長、心臓病センター長 光藤和明

みつどう・かずあき 広大付属(広島)高、京都大医学部卒。倉敷中央病院、小倉記念病院を経て1985年1月から倉敷中央病院循環器内科主任部長、2005年7月から同病院心臓病センター長、06年3月から同病院副院長、08年4月から同病院臨床研究センター長。日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会指導医。日本慢性完全閉塞インターベンション専門家会議理事。

 倉敷中央病院心臓病センターをよく分かっていただくために、まずは循環器内科の歴史と理念とを紹介しましょう。

小さくとも確固たる志

 今から35年前の1977年ごろ、心臓病センターの前身となる内科循環器グループが出来るとき、医師たちは小さくとも確固たる志を立てました。出身地は岡山以外の医師の集まりでしたが皆、倉敷という地域を自分たちの医療の場とすることでした。イメージとしては倉敷で治療を受けたいと思っている、倉敷のおじいちゃん、おばあちゃんをはじめとして多くの患者さんの喜ぶ顔が見たい。これを私たちは地域医療と呼びました。でも地域医療はレベルが低い田舎の医療の提供であってはならない。日本全国レベルの医療を提供したいと考えました。

 まず手始めに1978年、当時最先端の冠動脈造影(心臓カテーテル検査)を習得しました。その後今日に至る足跡は後で述べますが、次第にできるだけ世界標準、さらにはできれば世界最高レベルの医療を提供したいと考えるようになりました。世界では専門的医療が急速に高度化してきましたが、高度な技術を駆使した入院医療を行わなければならない患者さんが多くなると、外来での診察が物理的に困難となってきました。私たちには病気を診るのではなく「病気を持った患者さん全体を診る全人医療」という大きな課題がありました。しかし現代医療では1人で全人医療を担うことはできなくなったのです。

 そこで地域の先生方と共に1人の患者さんを診て、チームとして全人医療を行うしかないと考えるに至りました。患者さんが入院検査や治療をしなければならない時や、治療後の定期的経過観察検査、あるいは落ち着いていても1年や半年に一度の経過観察などは循環器内科で行い、結果情報は地域の先生に連絡します。心臓が安定している普段の健康管理は地域の先生に行っていただくというやり方です。私たちはこれを地域チーム医療と呼称しましたが、チームには情報交換の手段が必要です。1981年に倉中循環器グループと地域の先生方(開業の先生方が主)との月に一度のカンファレンス「西部循環器プライマリーケアの集い」が始まり、今も続いています(2013年3月で371回)。当時の地域チーム医療のイメージはおよそ図1のようなものでしたが、現在では患者さんの病状によって地域の病院の先生方や在宅医療の先生方も包含されるようになっています。

モービルCCU導入

 1982年からは、搬送中の病状急変に的確に対応するために、心臓専用の専門医師同乗救急車=モービルCCUが全国でも3番目に導入されました。主に急性心筋梗塞の患者さんを地域の先生からの要請に従って24時間態勢で迎えに行くようになりましたが、地域の診療所や病院で医師同士が短時間ではあっても直接患者さんの受け継ぎをすることで、お互いがより良い救急医療チームの一員としての連帯感を持って医療に当たることができました。

 循環器内科が内科から分かれて独立したのは1985年、28年前のことでした。最近チーム医療が声高に叫ばれていますが循環器医療はそもそもチームを組まなければ何もできませんでした。循環器内科だけでも看護師、薬剤師、臨床検査技師、診療放射線技師、臨床工学技士、リハビリ療法士、社会福祉士、ICコーディネーター(「説明と同意」の「説明」をするスタッフ)、緊急自動車の運転士、事務職の人々などが、1人の患者さんの状況に応じてさまざまなチームを形成しながら診療に当たってきました=図2参照

 循環器内科医と心臓血管外科医とのチーム意識も心臓血管外科設立当時(1980年)からありましたが、心臓病センターの名が出来て、病棟にCCU(冠疾患集中治療室)が併設され、同じ病棟内で循環器内科医と心臓血管外科医とが共に患者さんを診るようになったのは1987年からでした。心臓病センターの建物が建ち、病棟のみならず、外来診察室、モービルCCU帰還ブース、心電図や心臓超音波検査などの生理機能検査室、カテーテル検査室などほぼ全ての機能が同じ建屋内に統合されたのは2005年になってからでした。

 カテーテル検査を始めたころは冠動脈造影と電気生理学的検査を特に先進的に行いましたが、それぞれの専門分野の進歩・発展は著しく、情報量が格段に増加し、技術の高度化が進んだために、1人の人間が全ての分野の最先端を担っていくことができなくなりました。大筋の知識は皆で共有するけれども実際の検査治療は専門家が行う形を取るようになりました。現在循環器内科では心血管カテーテル部門、不整脈電気生理部門、非侵襲的治療部門、理学的・画像診断部門、救急・集中治療(CCU)部門、臨床研究部門の各専門分野の責任者がおり、それぞれの部門の力を最大限に発揮すべく頑張っています。

新しく有用な治療技術を早期に取り入れ

 心臓病センター循環器内科の、より良い医療を提供するための基本的な考え方としては、まずは新しく有用な治療技術を早期に取り入れ最大限研鑽(けんさん)・習得するとともに、その時点でのその治療法の問題点を解決するための工夫をすることです。現在では例えば、冠動脈の慢性完全閉塞(3カ月以上詰まった状態)のカテーテル治療や、分岐部の病変に対するステント治療の分野などに取り組んでいます。その他各専門分野の先端医療に関してはシリーズで次々に紹介いたします。

 次に問題点を解決するための新しい治療法、薬剤あるいは機器(デヴァイス)を早く患者さんに使用できるようにするために治験に参加することです。さらには、承認されていなくても海外の経験や理論で、これまでの問題点を解決するために有用と分かっている治療法・薬剤あるいはデヴァイスを、臨床研究として患者さんに同意を得て使わせていただいています(費用は循環器内科が負担し、患者さんからは頂きません)。

 過去、多くの治験・臨床研究を行ってきましたが、現在予定されているか実施中の治験・臨床研究のなかで、新規治療に関連したものをに示します。

 こうしたことが評価されて日本全国あるいは海外からも紹介患者さんがみえるようになって久しくなりますが、常に紹介してくださった先生のチームの一員として治療させていただいているという気持ちです。海外を含めて他施設で治療することもしばしばですが、その病院の一時的なチームの一員として患者さんを治療するという気持ちで行っています。私たちの原点はあくまでも昔から変わることのない地域医療へのあつい気持ちです。

 各専門分野と心臓血管外科、小児循環器の活動に関してはこれからのシリーズで紹介させていただきますが、本当に私たちが目指す医療が患者の皆さんに満足を持って受け入れられているのかどうか、地域の一員として大変気になるところです。不足の点は地域の方々のご指摘を受けて成長していきたいと考えています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年05月06日 更新)

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