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(3)冠動脈疾患の診療 倉敷中央病院循環器内科主任部長 門田一繁

かどた・かずしげ 愛媛県立八幡浜高、京都大医学部卒、同大学院医学研究科博士課程修了。京都大医学部付属病院を経て1984年倉敷中央病院内科、85年同病院循環器内科、99年同病院循環器内科部長、2008年から現職。日本心血管インターベンション治療学会理事。

 当科は創設初期から、冠動脈疾患の診療に特に力を入れ、狭心症、急性心筋梗塞のカテーテル治療(PCI)について、積極的に取り組んできており、現在までに3万例を超えるPCIを行ってきた実績があります=グラフ参照

診断

 狭心症や心筋梗塞は心臓への血管(冠動脈)が狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)をきたして、その結果、心臓への血液供給が不十分となって、胸痛などの症状を伴い発症します。その診断にはこれまでは直接冠動脈を造影する検査(心臓カテーテル検査)が必須でしたが、最近では、CT(コンピューター断層撮影)での評価も行われるようになっています。

 当院では最新のCT(デュアルソースといわれる2管球タイプで計256列)を導入し、短時間での撮影で、良好なCT所見が得られ=図参照、また、古いタイプに比べ、造影剤使用量や放射線被ばく線量をかなり低減できています。実際に、心臓カテーテル検査を行わず、CTで冠動脈を評価する機会も増え、年間2千例余りの施行例となっています。

治療

 冠動脈疾患に対する治療法には薬物療法、PCI、冠動脈バイパス術があります。このうち、PCIは細い管(カテーテル)を用いて冠動脈を拡張する治療法で、手首や足の細い血管からのアプローチで治療ができ、患者さんへの負担が少なく、多くの方は1泊2日の入院で治療を行っています。

 当初、この治療法ではバルーン(風船)のみの拡張で、再度狭くなる(再狭窄)ことが問題のひとつでした。この再狭窄予防のために、ステント(金属製の支えとなるもの)を用いることで再狭窄をある程度減らすことができましたが、その効果は不十分でした。その後、ステントの表面をポリマーでコーティングして、そこに再狭窄を予防する薬を染み込ませて、時間経過とともに染みだす構造のステント(薬剤溶出性ステント=DES)が使用可能となりました。現在、心筋梗塞を含め、積極的にこのタイプのステントを用いて、再治療率が5%前後と、劇的に改善してきております。

新しい治療器具

 従来のDESは金属製で、永久に冠動脈の中に残りますが、最近ではポリマー構造で、時間経過とともに生体に完全に吸収されてしまうステント(生体吸収性ステント)が臨床応用され、当院もこのステントの臨床治験を開始する予定となっています。

 薬剤溶出性ステントの導入によって、再狭窄はかなり減りましたが、数%の患者さんは再狭窄をきたし、このような場合にバルーンの表面に再狭窄を予防する薬剤が塗布され、その薬剤を血管壁に染み込ませる構造のバルーン(薬剤溶出性バルーン=DEB)が開発されています。DEBはすでにヨーロッパで承認されており、当院でもDEBを個人輸入して使用していますが、日本でも近い将来認可されるものと思われます。実際に当院ではDEBを用いた治療をすでに500人以上の患者さんに行っており、良好な再狭窄予防効果を確認しています。

慢性完全閉塞病変に対するPCI

 通常の病変でのPCIの初期成績は非常に良好となっていますが、冠動脈が完全に閉塞している病変では病変部分を再開通させることが困難な場合があり、その初期成績は必ずしも満足すべきものではありませんでした。器具や手技の向上に加え、当科独自の取り組みをもって治療を行い、95%程度の世界的にも良好な初期成功率が得られています。また、薬剤溶出性ステントの導入によって、その長期成績も向上しております。

急性心筋梗塞に対するPCI

 急性心筋梗塞に対するPCIに積極的に取り組んでいます。高齢の患者さんや重症例を問わず、より早期の治療、より良好な初期成績を得るために、年間300例余りの患者さんに対して、医師、看護師、生理検査技師、放射線技師など、多くの職種のスタッフが協力して、チーム医療を実践しています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年06月03日 更新)

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