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心筋梗塞治療後の運動療法 心臓病センター榊原病院 理学療法士主任 湯口聡さんに聞く

湯口聡・理学療法士主任

CPX(心肺運動負荷試験)の検査などを行う運動負荷室=心臓病センター榊原病院

 心筋梗塞治療後の再発予防や健康増進を目的とした運動療法について、心臓病センター榊原病院(岡山市北区中井町)の理学療法士主任湯口聡さんに聞いた。湯口主任は同病院で急性心筋梗塞の治療を受けた60歳代女性Aさんの例を挙げ、効果を説明した。

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 夏場、Aさんは突然の冷や汗と胸痛があり救急車で同病院に運ばれた。肥満度を判定する体格指数(BMI)は20・4で「普通」、朝1時間の散歩が日課で日本舞踊が趣味という活動的な女性だが、脂質異常症があった。動脈硬化のもとになる危険因子だった。緊急の心臓カテーテル治療を行って冠動脈を広げ、再狭窄(きょうさく)を防ぐため薬剤溶出ステントを留置した。

 治療から約1週間後、Aさんは湯口主任のいるリハビリテーションセンターを訪ねた。準備体操の後、自転車エルゴメーター(室内用自転車)で少しずつだが有酸素運動を始めた。体内に酸素を十分取り入れて行う有酸素運動は、軽度から中等度の強さで心臓に負担をかけず、運動能力の向上や危険因子の改善が図れる。逆に体内への酸素の取り込みが不十分な状態で行う無酸素運動(中等度以上の強さ)は息切れを起こし、心臓に負担をかけてしまう。

 Aさんは容体が安定しており、その後、ボルグスケール(主観的運動強度)や心拍数を参考に運動の強さを調整しながら運動療法を少しずつ進め、CPX(心肺運動負荷試験)の検査を受けた。運動強度が増すと、運動の効果を安全かつ効果的に行うことができる“時点”があり、それを調べる検査だった。

 時点は「ATポイント」(嫌気性代謝閾値(いきち))と呼ばれる。ATポイント以上のきつい運動では無酸素運動で疲労するが、それ以下の強度なら有酸素運動ができる。「適正な運動処方をする際の基本になるのがATポイントです」と湯口主任は解説した。Aさんが退院後に外来通院で行う運動療法(週3回)は別表のように決まった。

 退院3カ月後の検査で、Aさんの総コレステロールは154(退院時240)、LDLコレステロール74(同156)となり、危険因子の脂質異常症が改善されていた。最高酸素摂取量は21・9(同18・4)と上がり、運動耐容能(体力)が向上していた。

 湯口主任は「運動の効果が現れてくるには週3回のペースで3〜6カ月かかる。すぐに効果が出ないからといって諦めず、楽しみながら行うことが大切です」と助言した。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年07月15日 更新)

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