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(5)まとめにかえて 岡山赤十字病院 緩和ケア認定看護師 長谷川亜樹

はせがわ・あき 1989年岡山赤十字病院に入り、2009年緩和ケア認定看護師資格取得。11年から専従看護師として緩和ケア外来に勤務。

 「食べる」ことについてのお話は今回が最終回になります。これまで医師、栄養士、歯科衛生士、化学療法看護認定看護師、それぞれの話はいかがだったでしょうか? 食べることの大切さや、治療の影響による食べにくい状況から、どのように工夫すれば食べやすくなるのかということがお分かりいただけたでしょうか?

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 本来人間にとって「食べる」という行為は、栄養を体内に取り入れる、丈夫な体をつくるという意味を持っており、生きていく上でなくてはならないものです。

 みなさんも、幼いころに「しっかり食べないと大きくなれないよ!」と言われて育ち、子供たちにもそのような声掛けをした経験があるのではないでしょうか。成長のためにも「食べる」ことはとても大切な行為です。

 また、「食べる」ことは楽しみの一つになることもあります。クリスマス、お正月、記念日…楽しい行事にはお食事がつきもの! 考えただけでもわくわくしてきます。

 このように楽しい時には食事が進み、気分が落ち込んだ時には食欲がわかないというように、「食べる」ことは精神面にも大きく影響されます。

 がんに罹(かか)り、身体や心が揺るがされると「食べる」という大切な行為が脅かされることになります。がんによる症状はなくても、治療による影響や将来への不安から食べられなくなる患者さんもおられます。そして病状が進行し身体が弱ってくると飲み込むという機能自体が衰え、「食べる」ことが次第に難しくなってきます。この時期の食欲不振はむしろ自然なことと考えた方が良いでしょう。

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 「食べないと体が弱る」と考えてしまうのは、幼いころから「食べる」=「身体をつくる」と教えられ、育ってきた私たちにとっては自然なことです。しかし、その思いが逆に患者さんの負担になっている場合があります。

 ある時、患者さんから次のような話を聞きました。「食べたいのに食べられないのがつらい。食べられないのに家族から食べろ食べろと言われることがもっとつらい」

 このように無理に食べたり、食べさせたりすることは患者さんの苦痛を大きくしているだけかもしれません。

 またある患者さんは、「三度三度食事が決まった時間に出てくると、どうしても食べる気にならないんだけれど、大好きなパソコンをしながらそばに食べるものを置いておくと、自然に手がのびて知らないうちに食べてるんだよね」と話してくださいました。

 このように、がんの進行に伴った食欲不振は自然な経過であると捉え、「食べたい時に、食べたいものを、食べられるだけ」と考えることが必要ではないかと思います。

 大切なのは患者さんと共に周囲の人たちも、食べることに喜びを感じる…ということではないでしょうか。

 たとえ一口のスープでも、一緒に美味(おい)しいと感じることができたなら、それだけで素晴らしいことではないでしょうか。

 「食べる」という行為を苦痛ではなく、喜びや楽しみに変えることができるように考えていただけたらと思います。

 =おわり=
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年07月15日 更新)

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