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(66) 骨粗しょう症 川崎医大 福永仁夫学長(68) 診断基準改訂をリード 背骨、股関節の骨折注意

医学生に囲まれる福永学長(右から2人目)。診断と治療に尽力した骨粗しょう症の専門家は今、良医の養成に力を注ぐ

骨粗しょう症患者の骨の内(左)。健康な骨(右)と比べてスカスカになっているのが分かる

 骨の内部がスカスカになり、痛みを感じたり知らないうちに骨が折れていたりする骨粗しょう症は、古くから私たちの健康を脅かしてきた。約4千年前の古代エジプトでも、この病気がもとで骨折した患者がいたという。

 国内患者数約1200万人と推計されるこの骨粗しょう症が専門で、川崎医大の学長を務める福永仁夫は指摘する。「お年寄りが骨折すれば寝たきりになったり、余命が短くなる恐れがある。病気を早く見つけて治療することが大切だ」

 1984年に京都大医学部から川崎医大へ赴任し、骨粗しょう症の診断と治療に没頭。専門外来を開設し多くの患者と向き合い、エックス線や超音波を利用した診断装置の開発も手がけた。

 4年前の学長就任を機に臨床の第一線からは退いたが、今も骨粗しょう症の医療水準向上に力を注ぐ。その一例が、日本骨代謝学会などが1月に公表した改訂版診断基準。福永は作業部会の委員長として見直しをリードした。

 「背骨や股関節で骨折があれば骨粗しょう症と判断すると明示したのが改訂版の特徴」と福永は説明する。従来版も骨折の有無は見極めのポイントだったが、注意すべき部位は絞り込まれていなかった。

 骨粗しょう症を発症すると、背骨や股関節で骨が折れやすくなる。骨折すれば、通常の生活が難しくなり、寝たきりに結び付く。特に背骨の骨折は自覚症状がない場合が多いだけに、福永は「改訂版は医師の見落とし防止に役立つ」と意義を強調する。

 白衣を脱いだとはいえ、福永は治療法の動向にも深い関心を寄せ続ける。

 治療の柱は薬物療法。いずれも飲み薬で、骨が減るのを抑えるビスホスホネート製剤と、転ぶのを予防するほか骨の“材料”となるカルシウムの吸収を助ける活性型ビタミンD製剤を併用するのが一般的だ。最近では骨の形成を促すテリパラチドと呼ばれる新しい注射薬も登場するなど、治療の選択肢は広がっている。

 ただ、薬物療法の改善効果は直ちには見込めない。骨量が増えるとはいえ、治療開始後の半年から1年間で数%のレベルと言われている。

 「骨量は20〜30歳代をピークに減少する。日ごろから多くの骨を蓄えることが骨粗しょう症予防のポイント」と話す福永。牛乳や乳製品を通してカルシウムを若い時から十分摂取するよう勧め、「女性は骨粗しょう症になりやすいので特に心がけてほしい」と呼びかける。

 川崎医大は医師の子弟が多く学ぶ。福永も父親が医師だけに、自然と医学を志した。医学部進学当時は日本の高度経済成長期。それだけに「医学で日本の発展に貢献したい」との思いもあった。臨床現場を離れて学長の今は、医師養成が社会への貢献になると信じている。

 「常に感謝の気持ちを持ち、患者さんに信頼される医師こそが良医」と言う福永。川崎医大創立者・故川崎祐宣氏(1904〜96年)のこうした考えを次の世代に伝えていくことを、自らの教育方針に掲げる。(敬称略)

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 ふくなが・まさお 大阪府立大手前高、京都大医学部卒。同医学部助手などを経て1984年川崎医大に着任。放射線医学(核医学)講座の助教授、教授などを歴任し2009年から現職。趣味は美術館・博物館巡り。倉敷市内で妻と2人暮らし。一人娘は内科医として大阪府内の病院に勤務する。

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 外来 川崎医大病院の骨粗しょう症外来は放射線科(核医学診療)が毎週水曜日、整形外科が同木曜日に開設している。いずれも午前中で予約が必要。

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川崎医大病院
倉敷市松島577
電話 086−462−1111
ホームページ http://www.kawasaki−m.ac.jp/hospital/
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年08月05日 更新)

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