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(2)変形性股関節症 川崎医大骨・関節整形外科学教授 川崎医大病院整形外科部長 三谷茂

みたに・しげる 清風南海高、岡山大医学部卒、同大学院医学研究科修了。旭川荘旭川療育園などを経て、2006年岡山大大学院整形外科学准教授、10年4月から現職。日本整形外科学会専門医、日本リハビリテーション医学会専門医。

【図1】正常股関節レントゲン像(20歳)

【図2】股関節形成不全レントゲン像(20歳→42歳)

 皆さんは、年齢を重ねるにしたがって、関節が変形し、関節軟骨が擦り減ってしまう変形性関節症という病気をご存じでしょうか。

 骨盤と太ももの骨をつなぐ部分を股関節といいます。図1のように太ももの一番上の部分は、その80%以上を骨盤により被覆されており、体重が広い範囲に分散してかかる仕組みになっています。このため、ひざ関節と比べて安定性が高く、関節軟骨は擦り減りにくいとされています。骨盤と太ももの一番上の間に隙間が空いていることがわかります。この隙間が関節軟骨の厚みを示しています。

 一方、股関節に何らかの原因で変形がある場合は、この限りではありません。図2のように約半分しか太ももの一番上が骨盤に被覆されていない(股関節形成不全といいます)と、体重は集中してかかるようになり、関節軟骨が擦り減りやすくなります。同時に安定性が悪いために、頭側に太ももの骨が脱臼していくようになります。この人は約20年の経過で股関節に痛みが生じており、歩行もしにくくなっていました。関節軟骨がなくなっており、太ももの骨の位置も大きく違っていることがわかります。これが変形性股関節症の典型的な像です。

 日本では諸外国に比べて、赤ちゃんのときに股関節が脱臼している頻度が高いことが知られています。治療を受けても股関節形成不全が残る場合があります。また股関節形成不全があっても、気づかれないままに大人になってしまう場合もあります。変形性股関節症の90%以上が、股関節形成不全に起因するものとされています。すなわち、成長が終了しても軽度の変形があり、その後に長い年月をかけて関節軟骨が減るという経過をたどります。

 変形性股関節症は、関節軟骨がまだ擦り減っていない時期(前関節症)、少し擦り減った時期(初期)、半分以下となった時期(進行期)、ほとんどなくなった時期(末期)―の4段階の病期に区別されます。前関節症では自覚症状はないことが多く、初期でも股関節の違和感や少し曲がりにくいといった軽度の症状しかありません。進行期になると立ち上がりの際や歩き初めに痛みを感じるようになります。末期となっても痛みがあまりない場合もあり、症状の個人差は大きいようです。

 病期の進行は、変形の程度に加えて、筋力の低下や生活の様式、体重の増加などにより影響を受けます。前関節症や初期の段階では関節軟骨が擦り減らないように予防することが重要になります。股関節形成不全では、股関節周囲の筋力により関節の安定性が保たれます。殿筋、腹筋、大腿(だいたい)四頭筋などは安定性に重要なので、しっかり鍛えておきましょう。特別な運動は必要なく、姿勢よく、毎日20〜30分程度歩くだけでも効果があります。生活様式に関しては、和式トイレや布団での就寝、座敷でくつろぐなど、和式の生活は負担が大きくなります。自覚症状があるようならば、徐々に洋式の生活に切り替えることも考慮してください。体重に関しては、BMIが25以上だと3倍変形性股関節症になりやすいとの報告もあり、気を付ける必要があります。これに関しても運動は効果がありますよね。

 進行期や末期の段階でも前述の方法は有用です。ただし、痛みを感じるような動作や運動はなるべく避けることが重要です。関節軟骨は関節の中の滑液により栄養されます。関節を動かさないと、滑液は関節軟骨全体にいきわたらず、栄養が偏りがちになります。昨年、テレビ等で話題になりましたが、貧乏ゆすり(最近では「健康ゆすり」といいます)は理にかなった方法です。擦り減ってしまった軟骨が再生する場合も時にありますので、健康ゆすりは試してみましょう。

 このような取り組みをしても変形性股関節症による症状が重篤となった場合に、人工股関節手術が広く行われています。手術により以前の生活が取り戻すことができてよかったとの声をいただくことも多いです。しかしながら、予防に勝る治療はありません。特に変形性股関節症においては病期の進行の予防が大変重要です。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年09月16日 更新)

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