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(3)膝スポーツ外傷に対する関節鏡手術 川崎医大川崎病院整形外科部長、川崎医大スポーツ・外傷整形外科学教授 阿部信寛
あべ・のぶひろ 大阪星光学院高、岡山大医学部卒、同大学院医学研究科修了。米国カリフォルニア州立大ロサンゼルス校(UCLA)整形外科フェロー、岡山大大学院運動器知能化システム開発講座准教授を経て、2012年10月から現職。日本整形外科学会専門医、日本体育協会公認スポーツドクター。
膝の関節鏡手術
スポーツにおける外傷は足関節に最も多いですが、その次には膝の靭帯損傷と半月板損傷になります。ケガの場合には損傷部分を修復する必要がある場合がありますが、その治療の根本にはできるだけ早く、スポーツの現場に復帰させることがあります。そのためにもできるだけ侵襲の少ない関節鏡手術は有効です。
膝の関節鏡(内視鏡)手術
関節鏡とは胃カメラのように細い管の先にレンズとライトがついたもので、これで関節内をのぞきながら診察し、治療をします。通常の手術のように患部を大きく切開する必要がないため、負担が少ないのが特徴です。膝の前面に約5ミリ程度の皮膚切開を2カ所つくり、片方から関節鏡を入れて観察し、もう片方から鏡視下手術用の器具を入れて手術処置を行います。傷が小さいために術後の回復も早く低侵襲な手術であると考えられています。
半月板損傷に対する鏡視下手術
半月板損傷はスポーツをする人に多く、急性期では関節の腫脹(しゅちょう)と疼痛(とうつう)、著明な場合は断裂した半月板が挟み込まれ、膝の曲げ伸ばしができなくなります。慢性期では、頑固な歩行時痛や水腫、立位でガクッとなる膝崩れ現象を認めます。
半月板はクッションの働きを持っており、できるだけ残すほうが望ましいと考えられているので、できるかぎり半月板を縫合して治します。しかし、半月板の切れ方や切れた部位によっては、縫っても治る可能性が低い場合があるため、その時はやむを得ず半月板を部分切除し、引っかかり感を改善します。
前十字靭帯に対する鏡視下手術
前十字靭帯は脛骨の前方移動およびねじりを制動する重要な働きを持っています。スポーツ時の切り返し動作や着地の動作時に膝が「くの字」に曲がりつま先が外を向く体勢により、膝に大きなひねり外力が起こり、靭帯断裂を生じます。受傷頻度の多いスポーツとしては、バスケットボール、サッカー、スキーなどが挙げられます。
この前十字靭帯が切れた状態で運動をすると、膝が抜けるような感じ、いわゆる「膝崩れ」といった症状が起こることがあります。この状態ではプレーが満足にできないだけでなく、連続する不安定により、半月板損傷や関節軟骨損傷などの二次的損傷を高率に起こし、将来的に変形性関節症に移行しやすいことが報告されています。したがって日常生活でも膝の不安定性の強い方や、今後もスポーツを定期的に継続して行いたいという方は前十字靭帯手術を施行することをお勧めします。前十字靭帯は自己治癒能力に乏しいため、切れた靭帯を縫い合わせるという方法ではなく、自分の膝周囲の腱(けん)組織を用いて新しい靭帯を作る「靭帯再建」を行います。
再建術に使うのはハムストリング腱(大腿後面の膝を曲げる筋肉)や膝蓋腱(膝前面の膝を伸ばす腱)などを、前十字靭帯が本来付着していた場所に正確に移植します。その際関節鏡を使うことによって膝関節を大きく切開することなく、筋肉への手術侵襲を最小限にすることにより、早いスポーツ復帰が望めます。
前十字靭帯手術後は再建移植靭帯の生着成熟の早さに応じて、膝の運動や筋力トレーニングを行います。スポーツ特性に応じたバランス訓練や俊敏性訓練を加えることによって、術後約6カ月から8カ月でのスポーツ競技復帰を目指します。
この関節鏡手術の技術は進歩してきており、今では膝だけではなく、肩、肘、股、足関節などのスポーツ関節傷害に対して行われています。侵襲の少ない関節鏡手術は、術後の筋力、安定性、持久性などを高めるトレーニングとともに、スポーツ選手にとって絶対的に必要な治療法となってきています。
(2013年10月07日 更新)
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川崎医科大学総合医療センター