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(5)膝の痛みとお付き合い 笠岡第一病院付属診療所 健康増進クラブONE 健康運動指導士 石部豪

石部豪健康運動指導士

 2本足で立つヒトの膝は、からだを支えるため常に体重がかかるうえ、立つ、座る、歩くといった日常の動作が負担となり障害の起こりやすい部位です。

 今年6月の厚生労働省のデータによると、膝痛をもつ中高年は1800万人を超え、関節の軟骨がすり減るぐらいに悪化すると、要介護に移行するリスクは5・7倍になるとされます。特に地方の農村部では、膝に負担がかかる畑仕事や草むしりなどの重労働を日常的にしているという生活習慣も、膝の痛みに関係しています。「まだ若いから膝の痛みなんて関係ない」と思っている人も負担をかける生活を続けていると、将来、膝の痛みに悩まされる危険は高くなります。

 膝の関節は太ももの骨(大腿骨(だいたいこつ))とすねの骨(脛骨(けいこつ))とが直接ぶつからないように関節軟骨や半月板(線維性の軟骨)が介在してできています。さらには滑膜が分泌する滑液という潤滑油が摩擦を和らげ、膝のまわりの多くの筋肉や靱帯(じんたい)が衝撃を和らげる構造となっています。加齢や運動不足により筋肉が弱くなると関節が不安定になり、滑液の分泌も少なくなることで軟骨がすり減ってしまうと骨と骨が接触するようになり、炎症が起きたり骨の位置がズレたりして膝の痛みが起こります。

 膝関節の疾患のなかで最も多い疾患として「変形性膝関節症」があります。患者の多くは中高年の女性で、年齢とともに進行する、いわば関節の老化です。大半はO脚があるため膝の内側に力がかかりやすくなっており、その部位の軟骨や骨が傷んできます。肥満やスポーツのやり過ぎなども膝の関節に悪影響を与える原因です。

 膝の病状と治療については個人差が大きいため、痛みが出たら早めに整形外科を受診して専門の医師に相談し、症状に合った適切な治療を受けましょう。治療法としては、運動療法、温熱療法、薬物療法、装具療法などの保存療法や手術療法があります。

 日常生活のなかで生活習慣に気をつけ、できる範囲での保存療法を家庭でも行うことが重要です。温熱療法は、お風呂などで膝を温めますが、特に冬場などには膝を冷やさないように注意します。また、運動療法を行うことで、筋肉や関節の柔軟性を高め、膝の動く範囲を広げることで血行や代謝の促進を図ります。まわりの筋肉や骨、靱帯などを鍛えて支える力を強くして、膝にかかる負担を減らします。なかでも、お尻の筋肉(大殿筋)から太ももの後ろの筋肉(ハムストリングス)や前側の筋肉(大腿四頭筋)の筋力や柔軟性をつけましょう=図参照。

 膝に負担をかけないやさしい生活習慣として、正座は必要なときだけにすることや、重たいものを持ったり運んだりしすぎないようにするなどの、日常生活の工夫によって痛みと上手に付き合うことを心がけましょう。歩くだけでも膝の関節にはおよそ体重の2?3倍の負荷がかかるため、体重のコントロールを心がけ肥満に注意することや正しい歩き方を身につけることも必要です。

 私たちの施設では、膝痛に悩む利用者の方々に自転車運動をお勧めしています。自転車運動は膝の関節に負担をかけずにペダルをこぐことで、膝関節の動きの改善と筋力強化になります。その上、全身を使う有酸素運動は、骨や筋肉などを丈夫にするだけではなく心肺機能を高め体力増強につながります。

 「老化は足から」といわれます。膝が痛いから運動しない、動かないからより動けなくなり体重も増えてますます膝が痛くなる、というような悪循環は断ち切りましょう。

 さあ、あなたの症状やライフスタイルをチェックして膝の健康を維持しましょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年10月21日 更新)

タグ: 笠岡第一病院

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